混戦アンダーハート
2
 自身の不機嫌そうな顔つきに苦笑する。スマホに映る男は嘲笑うような表情をした。なんてことだ。

 別に昔からこんな表情だった訳ではない。幼少期の俺はそれはそれは愛らしい少年だったのだ。目は大きくくりくりとしていて、ふにふにのほっぺた、どことなく柔い雰囲気……だったのだ! 過去の産物だ!

 そんな幼児俺は、当時戦隊もののヒーローにハマっていた。主人公が俺様口調だったのがとてもかっこよく思えて、一生懸命真似をした。両親もそんな俺をほほえましく見守ってくれたものだ。

「いっちゃん、ご飯よ」
「フン、もらっちぇやろう」
「いっちゃん、後でパパと遊ぼう」
「芸でも見せたらやっちぇやる」

 ここまではよかったのだ。正直、この時点で止めていてくれたらなおよかったのだが、それは無茶な話だろう。俺は初等部からこの学園にいるのだが、その頃はまだみんなと普通に話すことができていた。異変が起きたのは中学のころだった。第二次性徴を迎え、皆が性に目覚め始めた。俺も成長期によりどちらかというとかわいらしい顔つきから男らしい顔つきへと変化した。両親がともに長身だからだろう、背も伸び、皆を見下ろすことの方が多くなった。

 おかしいな、と気づいたのは三回ほど体育館裏に呼び出す手紙を貰ってからだった。初等部まで取っ組み合いの喧嘩やじゃれあいをしていた友人からの呼び出しもあった。周りを囲まれ熱い視線を投げかけられることも増えた。

 その内、容姿の整っている方に部類する自分がどうやら同性に性的対象として見られていることを理解した。困ったのは、その注目度だ。囲まれたり、じっと見つめられたり、緊張したりすると自然と幼い頃に真似をして楽しんでいた俺様口調が出てしまうようになった。当たり前だがほぼ暴言なので周りから親しい友人は減った。表情を作るのも元々下手くそだったので、それと相まって近寄りがたい人として認識されるようになった。

 会社の名を背負う身として勉強には熱心に励んでいたため、「偉そうだけどまぁ実際偉い人」という認識に落ち着いてしまい今に至る。それによりこちらの緊張は更に高まり今では立派なコミュ障である。完全なる悪循環だ。がらんどうな生徒会室が居心地よく感じるのもコミュ障ゆえである。

 ちなみに他の生徒会役員は転入生の尻を追っかけているらしい。最後に執務室に来た連中が何かを言っていたが緊張とパニックでよく聞き取れなかったのでとりあえず頷いておいた。多分大したことではない。

 自慢ではないが、俺はコミュニケーションスキル以外なら一流だ。大変ではあるが生徒会の仕事を一人で回すくらいはできる。しかしやりたいかやりたくないかで言えばやりたくないので戻ってきては欲しい。

 ハァとため息を落とし新歓の挨拶の文面を作成する。何を企画したんだったか。すっかり記憶の彼方だった内容を確認すると、鬼ごっことあった。んー……? これ、多分めんどくさくなって適当に書いたやつだよな……? オッケー、出ちゃったのか……。

 風紀、という判を見て複雑な気持ちになる。あの顰め面で鬼ごっこの企画書に判を押すとかすごくシュールだ。変なことかいてごめん、とある種の申し訳なさすら感じる。挨拶考えて、式の進行を考えてルールの細かいところを詰めて外部に発注掛けるものを掛けたら島風と風紀委員に警備を頼む場所について話し合わなきゃなぁ……。やることが多いな。

 また余計なこと言っちゃうんだろうな、と思うと話し合いが今から憂鬱だった。しかし新歓に限らず行事では事件が起こりやすい。例を挙げるなら、制裁や強姦だ。この学園には親衛隊という組織が存在する。彼らは人気の高い生徒を護衛し学園内の治安を守っている。一方で、彼ら自身がこういった事件に関わっていることが多いのも実状である。やるせないが、きちんと管理できていない親衛対象にも問題がある。

 俺以外の親衛隊持ちの生徒(特に生徒会役員)が転入生の取り巻きをしていることで親衛隊に限らず生徒の間では不満が蔓延している。新歓できちんと整備をしないとひと悶着起きるのは間違いないだろう。特にビンゴやクイズ大会などと違い動き回る鬼ごっこが今回のメインイベントだ。監視がしにくいことは請け合いである。なんでこんな面倒なのにした、俺。

 少し憂鬱な気持ちになりながら俺はスマホで一人の男を呼び出す。米須宴〈ヨスーウタゲ〉、俺の幼馴染兼親衛隊長である。



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