俺ね、これでも反省してるのよ。
特級呪霊だなんだと外の任務ばっかり受けて、愛する五条家の呪詛師を野放しにしてたこと。やっぱりさ、身近なところからクリーンにしていかない限りには世界平和って望めねーと思わない?
「ってなァ、聞いてンだけど?」
呼び出しの内容は特段珍しいものではなかった。修業と称しいつも通りの悪口大会が開かれる筈だった。そう、筈だったのだ。
「よくよく考えてみなよ。俺ァ悟くんより弱いけど特級なの。特別超強い級で特級。ぶっちゃけ悟くんに俺の出自がバレちゃった今、オマエらの言うこと聞く理由ってないのよ」
そーれバンバン撃っちゃうぞ
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「ひぃ!!!!」
術式を撃った傍から穴が開いていく。わーい実家がぼっこぼこ。ウケんね。どうせなら景気よく更地にしたい。薄く立ち上る白煙の中、使用人たちは狼狽え逃げまどう。
「逃げんなよ。さみしいだろ」
「やめ、やめろォ!」
「ヤダァ、そういうフリ? 高度なジョーク言ってくンじゃん。見直しちゃった
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続けてバンバン。残弾が気になるお年頃なので無駄撃ちはできない。確実に仕留めてくよ
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「う゛ァ……?! 死ぬ……ッ?」
「大丈夫、死にゃァしない。オマエらみたいなのでも殺すと呪詛師扱いだかンね。俺の術式、覚えてる? ストレスを凝縮して撃ちだしてンの。つまり、ストレスを攻撃に有効なエネルギーに変換してるワケ。で、ここで思い出してほしいンだけどさぁ。これ、なーんだ
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サングラスを外して六眼を見せる。
ひくり、座り込んだ使用人の喉が動く。
「あれ、答えてくンねーの。まァいいや。ご存じ六眼で〜す! いぇーい! オマエら俺が無下限呪術継いでねー時点で愛想つかしてたもんなァ?! 忘れちゃってたンだろ?! うっかりさんだねぇ。ダメだぜ? こういう大事なこと忘れちゃ」
術式を放つ。
「――こういう目に遭っちゃうぞ
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撃つ、撃つ、撃つ。
「オマエら、俺がママンの呪い受けてなんで無事だったか分かる? 分かンねーよなァ、六眼のこと忘れちゃうポンコツだもんなァ? 優しい倫くんが教えてやンよ。耳の穴から脳幹までかっぽじってよォく聞けよ?」
簡単な話。
六眼で術式が見えてるから自身にかかった呪いもちょいと弄れる。解除まではできないけど、コントロールくらいなら余裕だ。
「ってなワケで一応は正気だったンだけど。ま、それができるってことはさァ。――俺の受けたストレスを他人にそのまま純度百で渡すよう術式を調整すンのも可能なんだよね」
ストレスをエネルギーに変換して撃ち出すのが俺の術式なら、六眼で視て変換する過程を省略してしまえばいい。
術式を撃ちこまれた使用人から、先ほどよりも汚い悲鳴が上がりはじめる。ああ、そうか。
「ごっめぇん
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威力が上がっちゃってまァ、かわいそうに。自業自得だね
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死にかけのセミのような使用人たちに笑いがこみ上げる。いやぁ、かわいそう。すンげぇかわいそう。
「俺、さァ。俺を見下すオマエらをずっと上から踏みつけたかったンだよね」
土足のまま背中を踏みにじる。痛い? 痛いよなァ。俺もあばら折られた時痛かったよ。
「大丈夫? まだ骨も折れてねーのにそんな泣いて。心配だなァ、そんなんでこっから反転術式覚えられンの?」
「……は、?」
「だーかーらァ、反転術式
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涙を浮かべていた使用人が謝りはじめる。喉を傷めそうなほどの声量が煩わしく、思わず眉を顰めた。
「どーしたんだよ。大丈夫、俺のオリジナル方法なんかで覚えさせたりしねぇって。ちゃぁんと俺が教わった方法で覚えさせてやるからさ
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――手始めに歯でも抜いてみよっか。
使用人のポケットから血痕のこびりついたペンチを取り出す。おうおう、愛用してたやつだもんなァ。手放さずに持ってるなんて偉いぞ
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がくんと使用人が白目を剥く。嘘だろ、まだ脅しただけなのに気絶しやがった。
どうすっかなぁと片手でペンチを弄ぶ。プルルル、とスマホが着信を告げた。
悟くん。
表示された名前に躊躇し――着信ボタンを押す。
「……、はい」
『倫。ビーフストロガノフできたよ。……帰っておいで』
ビーフストロガノフ、かぁ。せっかく作ってくれてるんだもんな。うん……、そっか。
「悟くん」
『ん、なに?』
掌を見る。血に濡れてない、悟くん譲りの真っ白な肌だ。
「俺が帰ってきたら、うれし?」
『馬鹿だね、倫』
電話口で笑う声が聞こえた。
『この僕が、帰ってきてほしくないヤツのために料理すると思う? ……嬉しいよ、すっごくね』
口元が綻ぶ。持っていたペンチを放り投げ、穴だらけになった廊下を歩く。向かうは玄関。帰宅の時間だ。
「すぐ、帰る」
電話を切り、外から微妙に形の変わった実家を拝む。
「……ま、いっか」
今日はもう術式も撃てそうにないし。悟くんが待ちくたびれたらいけない。
「おっかえり倫ぅ! ビーフストロガノフだよ
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帰るなり鍋を持って駆けつける悟くん。強張っていた肩の力が抜ける。
「パパンこれカレーって言うのよ知ってた??」
「わざとだよ
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「……しかも人参入ってるしぃ」
「好き嫌いはよくないからね」
「本音は?」
「嫌いなもの食べる僕の息子のしかめっ面が見たい」
「最悪
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にこりと笑って思い出す。そうそう、言い忘れてた。
「パパ、ただいま!」
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