火山頭に枯れ木ビーム。日々人間を脅かす呪霊たちを祓う職業――呪術師。生まれた瞬間から億越えの賞金をかけられたという最強の男がいた。五条悟。特級呪術師として全国を飛び回る五条の全力は、目下ある少年へと注がれていた。
朝の四時半ごろ、布団を抜け出す五条悟。
――朝早いですね。
『うん、息子のためにちょっとね』
五条悟の手元には、鍵、靴下、歯磨き粉のチューブ、注射器。いったい何をしようとしているのだろうか。
『ああ、これ? 朝の準備
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――こちらの靴下は裏返しのようですが?
『僕が毎朝一つ一つ丁寧に裏返してるよ! 履くたび戻さなきゃいけないの、腹立つでしょ!』
その手つきはまさしく職人。しかし、なぜこのようなことをするのだろうか。
取材班の戸惑いの声に、五条は薄く笑みを浮かべる。
『うーん、やっぱり息子のためかな。ちょっと大変だけど……、まァ、一個一個の嫌そうなリアクションがモチベーションだね』
悟くんのサムズアップを最後に、テレビに映る「了」の文字。なんだこれ。情●大陸っぽかったけどツッコミどころがありすぎる。ってかあの切れかけ歯磨き粉、毎朝注射器でセットしてたのかよ。ありがたくねぇ〜〜〜〜〜〜ッ!!!!
「……悟くん、なにこれ?」
「倫、この前僕から生まれたじゃん?」
「いや語弊」
「ってなワケで遅れたけど誕生日パーティーを開催しようと思ってさ! お祝いのムービーを発注してみました! パパ大好きって言ってもいいよ
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悟くんが名実ともに俺の親になったのは一二週間ほど前のこと。姉妹校交流会を終え時間ができた今、お誕生日パーティーとやらをしてくれるつもりらしい……けどさァ。
「これパパンのパパンによるパパン大好き
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「うっかりストレス溜めそこなったら困るかなって
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「わぁ〜ありがとう! パパ大好き
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配慮が行き届いてるね!!!!! 流石パパ!!!
お祝いのムービーに一言もおめでとうの五文字が入ってねぇのはよく分からねーけど心意気は嬉しいから問題なし。強いて言うならこれを問題なしと判断するボッケボケの俺の頭に問題がある。致命的なエラー。悲しいね。
「さァさこちらにご注目! 五条の愉快な仲間たちも呼んでるよ!」
「誰がアンタの仲間よ」
「よっ、五条! お誕生日おめでと〜!」
「釘崎。多分愉快な仲間にかかる五条は、先生じゃなくて倫の方だぞ」
「僕が仲間ってそんなに嫌???」
残念、この場合の五条の〜は悟‘s フレンドの意だ。
釘崎、虎杖、恵くんの手にはプレゼントらしき小包がある。まさかほんとに祝ってくれるつもりなのか。何気に初めてかもしれない。今まで? 聞いてくれるな。
三人はリビングに入るなり各々の好きな場所を陣取る。
「ねぇ、このソファー、片方のスプリングが壊れてて座り心地悪いんだけど。ってかアイスティー出してよ。喉乾いた。ジュースでもいいわよ。100パーの」
早速注文を付ける釘崎に悟くんがにっこり笑う。
「スプリングが片方壊れてるのはわざと! 沈み具合が違うの地味に嫌だよね。分かる分かる
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「特級呪術師しけてンなぁ! もっと盛大に歓迎しなさいよ。こちとら来客だっつーの!」
この何とも言えない作りの家で満足のいくもてなしを期待しちゃダメだ。フツーに生活するだけでもイライラするのに客として過ごすには減点箇所が多すぎる。
「五条の誕生日って今日なのな! 全然知らなかった!」
「俺ァ今日誕生日じゃないよ」
本当の俺の生まれた日はクリスマスイブだし、新たに誕生日として決まった日は九月九日だ。「先生?!」と驚いた声を上げる虎杖に、悟くんは首を傾げる。
「あれ、言わなかったっけ? 九月九日が倫の誕生日ってことになったから遅くなったけどお祝いするよって」
「聞いてません」
「っていうか誕生日になったって何よ」
「も〜、言ったじゃん! 倫、僕の息子になったんだって」
「聞いてないよッ?!」
半ば悲鳴のように叫ぶ虎杖に、同情の目を向けてくる恵ちゃんと釘崎。まっ今伝えたから大体同じだよネ! と頷く悟くんに周囲の反応はますます冷え込む。
「五条、大丈夫か? なにか脅されてたりは」
「アンタ、嫌なことは嫌って言った方がいいわよ?」
「五条せんせーと一緒に暮らしたら特訓し放題か! いいな!」
「あは、悟くんの評価が垣間見える」
差し詰め強さS、道徳点−Aってとこか。ちなみに実家は道徳点だけマイナス値限界突破してる。ソースは俺。
「馬鹿の息子になった云々って話ならどんちゃんする必要はないわね。さっさとプレゼント渡して解散しましょ」
「そうか! プレゼント!」
「……気に入らなかったら捨ててくれ」
手渡されたプレゼントに思わず戸惑う。ちらと悟くんを伺うと、開けていいよとばかりに頷かれる。いや、でもさァ……。
「五条、どうした?」
受け取ったまま開けようとしない俺に、虎杖が声をかける。別に、何ということはない。渡されたものが本当に俺宛なのか疑っているだけで。
「倫はもらっていいのか分からなくて困ってるだけだよね
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悟くんの手が背を撫でる。誘われるようにして黄色の袋を開けていく。
「………、」
「わっ野薔薇はTシャツかぁ! 倫に似合いそうだね
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「あったり前でしょ。この私が似合わない物選ぶはずないじゃない。アンタ、私服ダサいのよ。もっとマシなもの着たらいいってずっと思ってたの」
「………うん」
さ、次を開けなよ。
悟くんにこくりと頷き黒の包みを開けていく。
「ヘッドホン! 恵の使ってるやつの色違いかな? よかったね、倫」
「……ん」
「最後〜、悠仁は何かな」
赤の袋には、CDが入っていた。
「伏黒がヘッドホン贈るっていうから、俺はCDにしようかなって! 五条、あんまり音楽聴いてるイメージなかったから。この2枚は俺のオススメ! 多分五条も気に入ると思う!」
「…………うん」
言葉少なな俺を不審に思ったのか、釘崎が肩を怒らせる。
「ちょっと。さっきからコイツうんとしか言ってないんだけど! もっとかわいげのある反応できないワケ?」
「ああ野薔薇、違うんだよ」
悟くんが間に入る。嫌な予感。
――倫は初めて誕生日祝われるもんだから嬉しくて泣きそうになってるだぁけ
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「ちょっと悟くんなんで言っちゃうの?! 今話したら泣きそうだから黙っでだの゛に゛ぃぃ」
案の定、話した傍から声が涙で湿っていく。だから我慢してたのによォ!!!!!
「は?! ハジメテ?! へ!?」
「それを最初に教えてくださいよ」
「はァァァ? アホほど騒ぐわよ馬鹿ども!」
なぜか結託しはじめた三人を尻目に悟くんはニヤニヤと笑う。
「ハッピーバースデー、倫」
大きな青い袋を押し付けられる。
開けてごらん。
俺の身長ほどもあるテディベアと目が合った。
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