五条の息子はストレスフルB
6
「言ったはずだぞ。――二度はないと」

 終幕は突然だった。
 突然すぎて俺自身も何が起こったのかよく分かっていない。目くらましをして、呪霊は下水に避難する。術式を撃ちこむ……が、先ほど呪霊本人も言っていたとおり、致命傷にはなり得ないだろう。ひとえに相性が悪い。

「虎杖くんッ!」

 七海さんの声が聞こえる。あ゛〜? なんで七海さんがここにいンだっけ。ああそうだ、途中から助けに来てくれたんだった。

「高専に戻りましょう。五条くんも一度診てもらった方がいい」
「……俺ァ怪我なんてないよ」
「それでもです。さ、早く」

 七海さんの後ろをついていく。特級なのに、なにもできなかった。結局ツギハギを追い詰めたのは虎杖ただ一人。口を開けばサイテーなことを吐いてしまいそうで、帰りの車の中で、ずっと唇を噛みしめていた。




 医務室に着くと硝子さんと悟くんが待っていた。

「家入さん、虎杖くんをお願いします。……五条さんは五条くんを」

 悟くん?
 悟くんは返事をすることなく俺の手を取り自室へと引きずりこむ。俺をソファーに座らせた悟くんは、自分はその隣を陣取った。何も言わないなんてどうしたんだろ。
 のろのろと顔を上げると目隠しを取った悟くんと目が合う。

「久々の、悟くんだァ……元気ぃ?」
「元気だよ。オマエと違って」

 ぽんと口の中に何かを入れられる。つるりとした丸い何か。飴だろうか。

「あま、い?」
「何味」
「………ずんだ」
「オマエ、僕がずんだ味しか持ってないと思ってンの?」

 悟くんの指がほっぺを摘まむ。いひゃい。

「悟くん、俺のこと嫌いになったんじゃなかったの?」
「僕が? 倫が僕を嫌いになることはあっても僕はないよ」
「……俺だって悟くん嫌いじゃねーし」

 どうしてそんな発想になるのか。

「俺のこと避ける癖にセンセーとはいちゃいちゃして。なに? ムカつくんだけど。なんで俺のことほったらかしにしたの」
「は? オマエこそ僕が触ろうとするとびくつくじゃん」

 文句を言うと、また思いも知らない文句が返ってきてびっくりする。悟くん、気にしてたのか。

「……って、思ってたんだけど。倫、オマエ、怖かったんだね。僕がじゃなくて、僕の子供ってバレるのが」
「ッ??!」

 反射的に立ち上がりかけるも、腰に手を回した悟くんに引き寄せられる。……抱きしめられている。

「なに、何言ってんの悟くん。意味わかんね。俺の父さんは、」
「死んだってヤツ? もういーよそれ。知ってんだろ。オマエの親はお、れ」

 ぴらりと紙を見せられる。

『遺伝子検査の結果』

「親子、関係……」

 言葉が出ない。目が熱かった。

「……さとるくん、」
「呼び方……ってまァいいや。どうした?」

 声が甘い。

「俺、また、父さんのことも嘘だったらこわいなって思ってたから、」

 父親が悟くんであるという話も、母親と同様嘘だったら。そう思わない日がなかった訳ではない。悟くんにバレないように。悟くんが気付かないように。そう仕向ける一方で、悟くんが父さんならいいなと思っていたのも事実で。

 ――今ちょっとうれしい、かも。

 言うなり悟くんの腕の力が強まる。痛いし恥ずかしい。照れ隠しに肩をぐいぐいと額で押すと、チョコレートの香りがした。さっきまでタバコ、吸ってたのかな。

「じゃあああん! 戸籍謄本〜! 2部!」
「2部?」
「五条倫はさっきの任務で死んだからね」

 で、本日生まれました、と。

 二枚目の謄本を見せられる。名前は同じく五条倫。違うのは親の欄だ。

「叔父さんの名前から僕の名前に変えちゃった 気軽にパパって呼んでね、倫
「パパン…………、あのさ」
「ん? どうしたの」

 違うのは、親の、欄。

「どうしてママンも悟くんなの……」
「おやまァ倫くん。いい質問ですねぇ」

 ――ママンはね、処女受胎してパパンになったんだよ

 そっかぁ、処女受胎かァ……ならパパがママでママがパパでも仕方ないなぁ……。マリア様もパパは神様に任せてたと思ったけどなァ……。

「さっ倫、これからは僕の新しい家で一緒に過ごそうね でも倫は僕と暮らすとハピハピになって術式使えない雑魚になっちゃいそうだから特別製の家にしたよ
「わっなんだろ〜すでに割と不安なんだけど……」





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