俺のせいだ。
再度の電話で「これから映画だから」と虎杖にフラれた伊地知さんは、七海さんのピックアップを優先することにした。
「……七海さん、血」
「大した傷ではありません」
何気なさを装った口調。傷に宛がわれたタオルが真っ赤に染まる。聞かずとも分かる、相当に痛い筈だ。
「ごめん、俺も行けばよかった」
「言ったでしょう、あなたは子供です」
ふーと長く息を吐き、七海さんは車の天井を仰ぐ。追加のタオルもすぐに色が変わる。このまま全部の血をタオルが吸い取ってしまうような気がした。
「死にはしませんよ。私より寧ろあなたです。顔色が悪い。このまま高専に一緒に帰りましょう」
「……俺、」
「君の気持ちは分かってます。そのうえで君を子供にした。これは自己責任です。子供であることは決して罪ではない」
自己責任。
俺を子供にした罪がこの怪我なら、俺を大人にした罪は誰が贖うのだろう。
高専に帰った後、仮眠を取った。起きると、部屋の中はほんのり甘い匂い。悟くんが来ていたのだろうか。センセーがくれた灰皿の上にはひしゃげた煙草の燃えカス。チョコレートフレーバーのようだ。
「あっ五条! 元気そーじゃん!」
廊下に出ると虎杖が片手を上げて近寄ってくる。今頃ご帰宅か。遅かったな。
「……なぁ、五条」
「ん? 五条は人を殺したこと、ある?」
吉野に訊かれて俺なりに答えたんだけど、五条はどうかなって。
慌てて付け足された言葉はどこか言い訳じみている。
「……目の前で首を掻っ切られた。俺が生まれたせいで死んで、汚名を被った叔父さんもいる。それを俺が殺したっていうなら、確かに俺ァ人殺しなんだろうな」
「っ、」
「でもま、そりゃ暴論だよなァ。ってな訳でまだないよ
![](http://static.nanos.jp/upload/s/sabotenbazooka/mtr/0/0/20210429183059.jpg)
「……これからは? 呪詛師と戦うとしたら?」
呼吸が一瞬止まる。
自分の中の殺意を見透かされたのかと思った。
咄嗟に誤魔化そうとして、やめる。誤魔化したとて、考えもやることも何も変わらない。
「俺ァ、殺すよ」
「……なんで?」
なんで。なんでかァ。
「俺が、生まれたから」
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