五条の息子はストレスフルB
3
「伊地知さんほら頑張って!」
「ま、まってぇ〜〜」
「もっと足を動かしてッ、非術師に被害出ちゃったら大変だよ!」
「はひっ、はッ、ま、まって〜〜……」

 歩くより遅い。
 息切れをしている伊地知さんの隣をマネージャーよろしく走る。蝿頭は網のぎりぎり届かない距離を飛んでいる。

「腕をもっと振るッ! そんなんじゃ日本一になれないぞ がーんばっ! それがーんばっ!」
「はひぇ、はふ、はヒっ……」

 声援を送るも、伊地知さんからは息切れ以外の反応がない。……走るのに一生懸命すぎてつまんね。

 バン。

 からかうのにも飽きたので術式を使って蝿頭を祓う。

「あ、ありがとうございま、ぅげっほぐぇっほ」
「……どーいたしまして」

 あっさりと弾け飛んだ蝿頭に文句の一つも言ってこない。ここまで善人らしい対応をされてしまうと申し訳なくなる。
 今度は走ってない時からかうことにしよう。

 車に戻るなり俺のスマホに電話が入る。実家からかと思ったが、画面には虎杖の二文字があった。

「はァい。……ん? 吉野ンち行くの? マジかウケる。俺も今から行くわ。伊地知さん? いるよ、代ろうか。伊地知さん、虎杖から」
「はい、伊地知です。ハッ?! えっそれはちょっと! 映画?! ……違和感を感じたらすぐ逃げてください、いいですね」

 大人だなァ。
 伊地知が電話を切りスマホを俺に手渡す。

「まずいまずいまずいッ! 急げ私! 大人オブ大人の七海さんに叱られたら泣いてしまうッ!!」

 あーあ、大人だったのに。
 唸るエンジンを遮るように伊地知さんのスマホが鳴る。画面には七海建人。おめでとう、伊地知さん終了のお知らせ。
 この後いくつかやり取りをしたようだが、結論から言おう。伊地知さんは泣いた。





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