五条の息子はストレスフルB
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 七海建人は目新しいまでに大人だった。……それにひきかえ、

「恥ずかしくねぇの、センセー」
「パパって呼べよクソガキ」

 隣を陣取るセンセーはニヤリと唇を歪める。盛大な失言からはや一か月。ここ最近、悟くんの顔を見ることが減った。代わりとばかりに隣にいるセンセーは余程『パパにはなってくれねーの』発言がウケたのか未だに弄りつづけてくる。一か月だぞ!? 同じおもちゃでそんな遊べる?! 逆に尊敬するわ。物持ちいいね!!! 御三家の教育方針どうなってんの。

「そこ、静かに。……私は調査を続けますので、虎杖くん、五条くんは別の仕事を」
「七海せんせ 俺はァ?」
「伏黒さんは体術の授業でもしてきたらどうですか」
「残念、自習だ」

 またかよ。ここまでくると非常勤講師というよりストーカーだからな。

「続けます。映画館にいた少年、吉野順平。彼は被害者と同じ高校の同級生だそうです。佇まいからして彼が呪詛師である可能性は低いと考えていました。ただ被害者と関係があるとなれば話は別です」
「ジュソシ?」
「悪質な呪術師のことです。手順は伊地知くんに任せてあるので三人で吉野順平の調査をお願いします」

 そうか。呪詛師を知らないのか。五条に来たらいっぱいいるぞ。ざっこい術式もった使用人とかしょっぼい術式もったカッスい術式もった使用人とか。ヤだ、うちって呪詛師だらけ……?

「俺、家の外の呪霊より家の中の呪詛師祓った方がいいンじゃね」
「今更かよ」

 ケラケラと笑うセンセーは虎杖の背をつつきながら部屋を後にする。

「ある程度ではなくもう分かっているんですよね? 犯人の居場所」

 部屋を後にしようと廊下に出ると、背中の方で伊地知さんの声が聞こえた。

「勿論」

 あっさりと肯定する七海さんに足を止める。盗み聞きをする俺に気付いていないのだろう、二人はそのまま会話を続ける。

「犯人はその気になれば残穢なんて残さずに現場を立ち去れるハズです。私たちは誘い込まれています。単身乗り込むリスクと虎杖君を連れていくリスク。前者を選んだまでです。――彼らはまだ、子供ですから」

 単身乗り込まずとも、俺を連れて行けばいい。どうしても虎杖に術師をつけたいなら、七海さんが虎杖について俺を単身送り込めばいい。そういう手もあると気付いているのにそれをしないのは、いっそ愚かで馬鹿らしい。

「……彼ら、ねぇ」

 七海さんにとっては俺も子供か。

 思わず廊下に座り込む。七海さんは一級、俺は特級。普通に考えて俺が行くべき任務は七海さんの方だ。本当は、申し出るべきなのだろう。特級呪術師は一級呪術師に比べてできることが多い。それだけの権限が与えられている。……作戦の立て直しを命令する権限だって。

「うおびっくりした! 五条、しゃがみこんでどうした? 体調悪い?」

 頭上から虎杖の声。駆け足気味に戻ってきたのか、息は僅かに弾んでいる。

「いや、伊地知さん待ってただけ。虎杖こそどうした?」
「あっそうそう! 言い忘れたことがあって! 七海せんせー!」

 ドアを開け放つ。

「気を付けてね!」

 悟くんが虎杖を気に入る訳だ。おかげで答えが出た。

「七海さ〜ん! 今回は子供でいてあげるから、ちゃんと無傷で帰ってきてね!」
「……譲歩してくれずとも君は子供ですよ。それと虎杖くん。私は教職ではないので先生はやめてください」
「じゃあ……ナナミン……」
「ひっぱたきますよ?」

 ……あれ。そういえばセンセーはどこに行ったんだろう。

 センセーは消えたが作戦は続く。七海さんもセンセーがあてにならないと踏んで作戦の数には入れなかったのだろう。頑なにセンセーのこと作戦から省いてたもんな。

 伊地知さんに連れられ向かった先には、私服姿の吉野順平がいた。暫く学校に行っていないのだとか。へー。まぁ学校行かなくても死にゃァしないしね。学校行ってない間に任務詰め込まれたら死ぬけどね 実家の呪詛師ども、きーてる?? オマエらに言ってンだよ??

 作戦はこうだ。
 吉野順平が人気のないところに出たら蝿頭を使って襲わせる。状況に応じ救助・拘束の判断を行う。シンプルでいい。

「吉野順平に二級術師以上のポテンシャルがあった場合、五条くんが彼の拘束をお願いします」
「おっけー」
「では、車を降りますよ」

 伊地知さん、悟くんに虐められてないとこんなできる人なんだなァ。知らなかった。




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