五条の息子はストレスフル
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「……げ」
「また任務か。一級とはいえ、多すぎないか?」
「まァ、んー。そうね」

 実家からの連絡にスマホを取り出し、顔を顰める。俺の声音で用事を察した恵くんも不可解そうに皺を寄せた。

 俺に任務が多いのは今に始まったことじゃない。それこそ、術式がバレた日から俺の日々は任務漬けだ。ひったひたのベッタベタ。滴る勢い。なんと素晴らしき教育方針。思わず拍手喝采、スタンディングオーベーション。全俺が泣いちゃうこと間違いなし。

 やや死んだ目で席を立ち、胃を擦る。じくじくと痛むような。

「……これ、任務に行く車の中で食え」
「ナニコレ、おにぎり? 恵くん握ったん? ウケる」
「うるせ、黙って食え馬鹿」
「……ありがと」

 恐らくは自分用の昼食だったのだろうおにぎりをありがたくいただく。門の傍には最近顔なじみになりつつある補助監督が車を停めている。

「任務先まで」
「はい」

 エンジンを蒸かし動き出した車の中でアルミホイルを破く。海苔の香りが車内に広がる。

「いただきます」

 中身は梅だった。すっぱいタイプか、はちみつに漬けられ甘くなったタイプか、俺にはよく分からないけど。

「うまい」

 思いやりの味だ。
 食べ終わったホイルを小さく丸めポケットにねじ込む。窓の外を見るに、そろそろ目的地に着くようだ。

「闇より出でて、闇より黒く――…ご武運を」

 それじゃァま、行きますかね。

「さっさと終わらせて帰ろっと」


 ……っていうのがフラグだったかなって今にしては思う。なに!? なんで特級!??

 五条は呪霊の階級も分からなくなっちゃったのかな 俺心配だなァ

「あ゛〜〜許さねー!!!!!」

 眼前の呪霊はメキメキと腕の数を増やし暴れまわる。飛んできた瓦礫で頬が切れた。

「ッだっから俺ァ無下限呪術使えねーから物理攻撃効くんだっつーの!! 死ねッ」

 ――悟様の術式を使えないのでは、なんのために襲わせたのか分かったものではない。

 うるさい。

 ――もう蒼を使える悟様に睡眠薬など使えないというのに。

 うるせぇよ。

 ――なんのために生まれてきたのか。

 だからうるせぇって。

 ――悟様の方がよほど、

 うるせぇ。

 ――悟様のために強くなりなさい。

「ッだァ!!! 悟様悟様うっせぇなッ!!!」

 ストレスを凝縮し呪霊に向かって撃つ。クソ、やっぱこんなんじゃ祓えねぇか。
 大きく息を吐く。

 母親を名乗る使用人にかけられた呪いはなかなかに強力で、少しでも油断するとさっきのような言葉が頭の中に流れ込んでくる。命を代償にかけた呪いだ。効力も大きい。まァ、本物の母親かは分かったもんじゃねぇが。なにせ母親を名乗る女は三人ほどいたもので。

「俺ァ五条のためにも悟くんのためにも生きねーよ」

 情緒クソ野郎の俺にそんな人間らしい機敏を求めないでほしい。すっかり静まった脳内に口角を醜く歪める。

「俺の術式は自分にかかった負荷を凝縮、撃ち出す術式だ。負荷の大きさに威力は比例する」

 呪霊が口からなにやらを吐き出す。砲弾のように飛んだそれは俺の足下をじゅうと溶かす。

「オイオイ。術式開示の途中だろうが。気の早い男はモテないぜ?」

 ――ほら、静かにしろよ。

 呪霊の首に回し蹴りを入れる。

「ッシュート! ほらァ、センセーに教わった回し蹴り どう? 元気? 生きてる??」

 倒れる呪霊にバンバンと術式を撃ちこむ。

「なんで返事しねーの? 人に話しかけられたら無視しちゃいけないって習わなかった? 俺ァ習ってねーけど。未就学児だったし。オマエはどう? 習った? 習ってねーよなァ。俺が習ってねーんだもんな? オマエが習ってちゃおかしいだろなァおい」

 バンバンバン。テンポよくいこーねはいはいバンバン。

「あっ術式開示の途中だった。いっけね。じゃあこのまま説明すンね。ちゃんと聞いとけよ。負荷の大きさなんだけど、肉体的なものと精神的なものの2つがあってね。肉体的負荷はぶっちゃけ今一つ術式に効果ないんだけど、精神的負荷がこりゃもー驚くほど術式に効くのよ。燃費がいいっていうの? あっ因みにこれも俺が実際に拷問されて分かった研究結果だから。おかげで反転術式使えるようになったんだよね……ってあれ」

 気が付けば呪霊はピクリとも動かない。なんなら若干煙が出はじめてる。

「聞いとけつっただろーが。ンなこともできねーのかよ。雑魚が」

 おらよっと。トドメに一発入れると呪霊はあっさり消えた。つまんねーの。

「……特級相手でも思ったより動けちゃったな」

 やっぱり日頃からストレスを受けてる賜物だろうか。絶対礼なんて言わねーけど。
 何かがせりあがるような感覚にうっと口元を抑える。抑えた掌を溶けかけの米粒と胃液が汚す。

「あーあ。吐いちゃった」

 せっかく恵くんがくれたのに。
 もったいないなァ。





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