五条の息子はストレスフル
2
 ことの発端は俺の術式だった。

「さ、坊ちゃん。術式を教えてください」
「……えっと、」
「坊ちゃん。さ、早く」

 相伝かと嫌な目を向ける大人たち。六眼を持って生まれた俺に五条悟の再来かと期待していたのだ……というのが分かったのは小学生に上がる歳頃になってから。まァ俺小学校に通ってないけど。

 あんまり大人がギラギラした目を向けてくるものだからつーい子供の俺ァ吐いちゃったんだよねぇ。六眼で捉えた自分の術式をぺろりとそのまま。

『自身にかかったストレスを凝縮、撃ち出す術式』だって。

 屋敷の奴らはもーうがっかり! 禪院のことを嫌ってるくせに五条だって大してあいつらと変わりないね。寧ろ「禪院家に非ずんば呪術師に非ず。呪術師に非ずんば人に非ず」なんて堂々と倫理観のないこと言っちゃう禪院の方が俺ァ好きだね。貫けたクソ野郎って感じで。
 五条ときたら真人間面してふざけたことしでかしてくるからヤんなっちゃう。

「おっ甚爾センセー来たね」
「オマエ年々あいつに似てくよなぁ」
「あっは、愛しのお父様に? でもそれ毎回言ってるけど悟くん俺のこと従兄弟だと思ってっから内緒にしてね」
「さぁてどうかな」

 センセーはニヒルに口角を上げ、胸ポケットから煙草を取り出す。白い煙を吹きかけられ咳き込むと、楽し気に肩を揺らした。クソ、俺ァ無下限呪術師じゃないからモロに食らうんだよ。煙で涙のにじむ目で睨みつけると益々ご機嫌になるセンセーに思わず眉を顰める。

「にしてもオマエほんと似てんな」
「まぁだ言う?」
「白い髪に六眼ってだけでも十分だったのによ。今のオマエ、俺を殺そうとした頃の五条悟にそっくりだぜ」
「は? センセー、悟くんに殺されかけたことあんの? だッさ」
「うっせ、お前と出会いたての頃に一回な」

 何したらそんなことになるんだか。白けた目をする俺にセンセーは「星漿体を殺したフリして依頼人をちょっくらだまくらかしたンだけどよ」と犬歯を見せる。さっすがセンセー。やることが屑。五条家に俺の指南役として選ばれただけある。ちなみに指南役の読みは加害者。「こいつならいい感じにストレスを与えてくれそう!」という夢と希望を託された存在がセンセーだ。ウケんね。

 センセーが殊の外文字通りの指南役を務めてくれているおかげで今のところ五条の読みは外れている。ちなみにセンセーと初めて会った頃にあった『ママンはただの使用人だよ』事件も五条家が仕組んだものだ。生まれてから親という存在を知らなかったもんだから「私が母ですよ」とかいう言葉を鵜呑みにしちゃったンだよな〜〜!! 因みにあの後同じことを2回ほどやられた。文字が読めるようになってから家系図を改めて見ると、すっげー堂々と俺の名前が悟くんの下に連なってたからびびっちゃったよね。その頃には従兄弟として程ほどに仲良くさせてもらってただけにショックだった。そのために長年かけて仕込まれた罠だったらしいぜ! 腐ってんな!!!

 俺ァ悟くんが精通して間もない時にできた子供なんだが、まぁその方法がフッツーにアウト。まだ幼い悟くんの晩ごはんに睡眠薬を仕込んで適当な使用人に襲わせたらしい。なんで生まれる前のことまで知ってるかって? 教育の一環として五条家が教えてくれたから 態々教えてくれるなんて優しいね 情緒がクソ。

 術式を吐かされてから知らされた俺の生まれは今のところ悟くんには伝わってない。俺も言う気はさらさらない。従兄弟だと思ってたガキが自分の子供で、しかも歳の計算が全く合わないとか不気味じゃね?

 お陰さまで生きてるだけでストレスがマッハ。ありがとう、今日も飯の味が全くしません。全て狙い通りってか、ふざけんな。

「オマエ、明日からだろ?」
「高専? 明日からよ。悟くんと毎日顔合わせんの、フクザツぅ」
「難しく考えすぎなンだよ。ガキだろうが」

 俺の頭をくしゃりとかき混ぜるセンセーに顔を顰める。照れ隠しだと分かっているセンセーは小馬鹿にした表情で鼻を鳴らした。

「高専には売りそこなった俺のガキもいる」
「ああ、五条家が目をかけてるとかいうあの」
「あの、だ。星漿体を同化させねーように逃がそうとしてたからよ。殺さねー代わりに五条で保護しろってな」
「素直にお願いしないあたり根性ねじくれてんね」

 端から殺す気もなかったクセに悟くんとの交換条件に持ち出してるとこがミソ。

「まぁその、なんだ。精々楽しめ」

 微妙に捻くれた言い回し。口をへの字に曲げて短く「おう」と返事をすると、センセーはやっぱり鼻を鳴らして笑った。





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