盛り塩一丁!
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 何度目かになる溜息にオカマはキッと眦を釣り上げる。

「あぁもう鬱陶しい! なんなのさっきからウジウジして! 鈴木と萩丘の二人のことはうまく行ったんでしょう!? 何をそんなにウジウジもじもじイジイジしてるの!」
「ちょっとうまく言えたみたいな顔しないでくれます?」

 ほんの少し得意げな色を滲ませたオカマにつっこみ、うぅんと唸る。相談したいのは山々だが、実のところ自分でもなんと言えばいいのか分からないのだ。体を重ねたせいか、最近やたらとセンパイを目で追う自分がいる。視線に気付いたセンパイが悪戯っぽく笑うたび、叫び出しそうになるこの気持ちを、俺は現状持て余していた。

 ピコン、とスマホにきた通知に俺はよっこらせと立ち上がる。行くの、とオカマが聞いた。

「クラスから呼び出し。戻ってくるようにってさ」

 何か問題でもあったか、サボりがばれたかのどっちだろう。クラスの出し物はなんだったかなぁと思い出しつつ、俺は救護室を後にした。廊下には花紙や輪繋ぎの装飾があふれており賑やかだ。学外からの客の中には近所の高校の生徒もいるのか、ナンパじみたやり取りまで見受けられた。

 本日は文化祭。二日目の一般開放日だ。
 呼び出しに応じクラスに戻ると、繁盛しているらしく、なかなかの混み具合だった。

「魚沼くん! 昨日委員会の方で仕事があるからって言ってたけど裏庭で本読んでたでしょ! 買い出し班が見たって!」
「そうそ! 丁度不幸なことに堀さんが体調不良でシフト入れなくなったから魚沼くん、入ってくれるよね?」
「……んんん?」

 ね? と一緒になって圧をかけてくるのは、体調不良?の堀さんだ。えぇ? と見遣るもわざとらしい咳が返ってきて、俺は大人しく頷くことに決めた。了承した俺に、堀さんたちは意気揚々と衣装を持ってくる。

「……あのさ。見りゃ分かるんだけど、最後の希望をかけて一応聞いてもいい? ここ、なんの店出してんの」
「往生際悪いなぁ。執事・メイド喫茶だよ!」

 堀さんの衣装が執事だったり……は、しないよなぁ。
 女子の平均より高身長な堀さんに視線を送ると、メイドだよと笑われる。サボりのペナルティーが重いなぁ。



 昼頃。大繁盛の教室に尋ね人がやってくる。

「あー、悪い。魚沼圭一はいるか?」

 チャランポランの、と余計な一言を付けて聞くセンパイに思わず顔をしかめる。全く俺と気付く様子のないセンパイに、お待ちくださいね、と微笑み席へと案内した。裏声にも気付かず、センパイは大人しく奥の席へと通される。

「魚沼くんは今買い出しに出てるみたいなので、それまで何か食べませんか? オススメはもちふわパンケーキです」
「え、あ、じゃあそれとコーヒーを」
「畏まりました! オーダー入りまーす」

 急に裏声で接客を始めた俺に、クラスメイトは変な顔をする。お前、そんなことしてるとホントに女にしか見えんぞ、という余計なアドバイスは無視だ。折角金蔓が来たんだ。毟れるだけ毟ってから種明かしをしたい。

「お前羞恥心とか」
「馬鹿野郎めが。やるなら徹底的にやらなきゃ逆に恥ずかしいだろ。見てろよ、俺に女装させた奴より可愛くなって客を全員誑かしてやる」

 むんと意気込む俺にクラスメイトは呆れ顔だ。男らしい骨格を隠し、全力でメイクをした今の俺は無敵。程々にな、とありがたくもない忠告を聞き流し、センパイのテーブルへと向かう。

「お待たせしました! もちふわパンケーキです。こちらアイスクリームを添えておりますのでお早めにお召し上がりください」

 ニコッと笑った俺にセンパイは固まる。

「やっぱり魚沼か」

 見惚れるがいいと内心あぐらをかいていた俺は、言い当てたセンパイにギョッとする。目に見えて狼狽た俺に、センパイはニヤリと口角を緩めた。

「やたら愛想がいいから疑ったが、人を転がそうとするその感じ、魚沼だな」

 しかも判定方法が酷い。眉間に皺を寄せる俺に、メイクが崩れるぞと腹の立つ助言をする。皺を深めてやりたいところだが、実際崩れると困るのは俺だ。渋々ながら表情を和らげると、センパイは楽しそうに微笑んだ。

「昼食に誘いに来たんだが、お前に促されるままパンケーキを注文してしまったしなぁ。そろそろ休憩だろう。ここで一緒に食べないか」
「……奢りなら」
「ん、じゃあ奢るから。お前の時間を俺に売ってくれないか?」

 流し目にうっと腰が引ける。このセンパイ、色目を使って誑しこもうとしてくる……っ! 内心の動揺を呑み込み、困りましたねと裏声で呟く。

「メイドは商品ではないのですが……仕方ないですね、ご主人様」

 一時間二千円でいいですよ。
 笑ってみせると、がめついなと苦笑された。



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