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『仲間(椎名)』
 風紀委員の不思議そうな眼差しを一身に受けつつ青は神妙な顔つきでスマホを掲げる。

「先日Twitterに桜楠学園、風紀委員会のアカウントを作った」
「は、あ……?」

 ついったー。SNSの一つだということは知ってる。なんかあれだろ、短い日記をネットにアップできるとかいう……ブログみたいなやつ。円が教えてくれた。生徒会がついったーのアカウントを作ったんだとか言っていたがイマイチぴんとこなかった。なんで生徒会が日記をアップするんだ。
 俺のリアクションから理解していないことを悟ったのか、橙が(青から奪った)スマホ画面を見せてくれる。

「例えばこの青のアカウントをタップすると……ほら。昨日『風呂沸かす温度失敗した』って呟いてる」
「なんでそんなどうでもいいこと……?」
「他に言うことがないんだよ、かわいそうに。一昨日は……『シャツのボタン取れた』って。非公式親衛隊の人かな、青のツイートに返信してる」
「なんて?」
「『付けて差し上げましょうか』」

 居心地悪そうな青に視線を向けると、やんわりと首を振られる。

「返信するとキリがないからスルーしてる」

 キリがない?
 説明を求めて橙を見ると、やや嬉しそうに「青をフォローしてる桜楠生は多いからね」と教えてくれる。フゥン? つまりその、日記を見る人がいっぱいいるため寄せられているコメント数が多いと、そういうことか。人の日記にケチつけるのも失礼な話だが、見たところで面白い内容だとも思えないのにな。俺の感想が予想できたのか、青は苦い口調で説明を足す。

「赤、しがない一般人のTwitterなんてこんなもんだぞ。というか俺のなんてまだマシな方だ。橙なんて『記念日』ってアカウント名でほぼ毎日赤との思い出を投稿してるからな」
「は? なんで青が知ってるわけ」
「桃が教えてくれた」

 流れるように入ってきた橙の話に噎せかえる。アカウント名からしてそりゃあれだろ、サラダ記念日みたいに小さな思い出一つ一つをなんちゃら記念日って命名してるんだろ? いくら桜楠学園入学以前からの仲だとはいえ、365日分も思い出なんてあるものだろうか。その記念日、さては大分刻んでるな??

「……ちなみに今日は何記念日だ?」
「今日は赤のTwitterデビュー記念日」
「予言するな」

 橙はという訳でと雑に話を切り出す。

「さぁ赤、まずは風紀のアカウントで呟いてみようか」
「呟く?」
「Twitterに投稿することだよ」

 橙に促されるままスマホ画面を覗き込む。『桜楠学園風紀委員会』と書かれたアカウントには「不定期に風紀委員が交替で呟いていきます!」と紹介文が添えられている。おい、聞いてないんだが。

「俺が昨日呟いたから今日は赤の番なんだよ」
「昨日?」

 見ると一日前の日付の投稿が。なになに、『洗濯機のボタン押すの忘れてた(夏目)』と。青……お前の呟き、風呂の温度やらシャツのボタンやら洗濯機の話やら、やたら生活感が漂ってるな? 日々の記念日から生活感の強いものまで投稿されているTwitter、幅広い。

「って言われてもわざわざ文字に起こしたいものなんてないぞ……」

 困り果てる俺に、「文字じゃなくてもいいぞ」と青が再び画面を見せてくる。なになに、『桜楠学園生徒会』。この前円が見せてくれたやつだ。冷めかけの紅茶を口に含み、スマホ画面に目を向ける。

「例えば桜楠の投稿だと、ほら。赤の写真」
「んぐッ?!」

 紅茶が気管に入った。

「『今日の生徒会は来月の全校集会の段取りについて話し合いました!スムーズな運営を心がけます。写真は俺の部屋に来て早々寝落ちした由(円)』って俺関係ねぇ!!!」

 なぜ全く関係ない写真を載せた。関係ないものを載せるにしてもせめて生徒会メンバーの写真であれ。数々のツッコミどころを飲み込みつつ生徒会のページを見直してみる。すると、最初に見た時には気付かなかった『ミュート中』という表示があることに気付いた。風紀のアカウントが生徒会のアカウントをミュート……? 首を傾げる俺を、見回りから帰ってきたF組連中がわらわらと囲みだす。

「何見てんの? ってTwitterか」
「ああ……この前ダボの委員長サマが生徒会ブロックして周りから止められたやつな」
「だねぃ。結局ミュートしてんじゃん。ウケる」

 訳知り顔の牧田と二村。どうやら風紀委員の間ではTwitterアカウントができたことはそれなりに知れた話題だったらしい。事情を知ってるやつからバトンを受け取ればよかったのにと思いつつ興味津々の周囲に――

「あ」

 投稿内容を思いついた。

「お前ら、ここらへんに集合」

 ほらほらと執務室にいた委員を一所に集める。集合したところでスマホのカメラを起動し、シャッター音を鳴らす。うん、いい出来栄え。

「じゃ、これで次の奴の番な」

 青にスマホを返却すると、被写体となった委員が一斉に自身のスマホを開く。内容を確認しているのだろうか、見たものの柔らかな笑みにそっと息を吐く。

「うん、いいな」

 青の言葉に「だろ」と笑う。投稿したのは風紀委員の写真と、たった一言。




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