「じゃあ、五位の発表にいくよー」
ダラララララララ……
ドラムの音が再び鳴り始める。余談だが、橙はなんだかんだと周りの人間を言いくるめ、二階席に来てしまった。止めようにもイヤホンの調子がおかしいなーという素振りをされるのだから敵わない。先程から横にちゃっかりと座っている。知ってたさ。諦めさせるのが無理なことなんて。大人しくしろよ、と言い含めると横でじっとしているのでまぁいいかと放っている。ただ一つ不満があるとすれば視線が気になることくらいだろうか。なんでじっとこっち見てるんだ。
チャン! と軽やかな音が鳴り、ドラムが止まる。
「五位! 桜楠円!」
○桜楠 円
『腹黒そうなところ(笑)…円はまだまだ化けそうな可能性を感じます(*^^*)』
「化け……票を入れてくれてありがとう。腹黒……くなれるかは分からないが今後も会長として学園をまとめ上げたいと思う。今後も応援してくれると嬉しい」
∴「本編の方ではもうすぐ体育祭が始まる。楽しみにしてくれ。……由と久しぶりに晩ごはん食べたりしたいなぁ。また食べような」
そういえばもう長いこと一緒に食べてないな。……まぁ、そうだな。そういうのも悪くないかもしれない。
「じゃあ、いよいよ四位の発表だよー! ほら、春樹も起きて!!」
まだ寝てたのか……。長谷川はイヤホンを三浦の耳に挿し込み、ウォークマンを弄り、何やら流し始める。
「……あれ、何流してんだろうな」
「さぁ……? あのうるさいやつだからBLの音源とかじゃない?」
あぁなるほど。いかにもありそうだな。その予想を裏付けるように、三浦は顔を顰め文句を言う。
「BLのドラマCD流すなよ……」
長谷川の持つマイクがイヤホンから漏れ出る音を微かに拾い、会場に流す。喘ぎ声……? 喘ぎ声か……? 喉の奥から搾り出されるような甲高い声だ。こっから四位の発表をするのか。この空気どうするんだ。誰か知らんが四位の人、かなり気の毒だぞ。
「……もうドラム音なしでいいよねっ? この喘ぎ声バックに出てもらおうよ〜! ねっ?」
「あー、そうする?」
自棄になったのか長谷川がとんでもないことを言いだす。自分の名が呼ばれないことを分かっているからか、三浦も特に止めることはない。嘘だろ、やめろ、やめてやれ。
アンッ、アアア、と甲高い声は尚も続く。
「じゃあ四位の人の発表でーす。第四位〜」
BGMは行為の音。水音と喘ぎ声を背景に二人は進行を進める。……これは酷い。
「第一章の最後に登場し、第二章の圧倒的包容力で強い支持を得た男ッ! 畠一秀〜ッ!!!」
相変わらずCDは流れている。そして変わらず止めるものはいない。
「……俺、この状況で出ないといけないのか。帰っていいか?」
舞台裏から一秀の声が聞こえる。もう出なくていいんじゃないか? 正直俺もこの状況だったら出たくない。
「拒否は認めませーん。出てくださーい」
「……なるほど、ウォークマンを潰せばいいんだな?」
後々のためにも。
一秀は低い声で唸るように呟く。あ。長谷川死ぬかもしれない。
ゆらり、一秀が現れる。靴底を床で慣らしている。すでに臨戦態勢だ。流石にこれはまずいと一階席に飛び降り舞台に駆け上がる。
「一秀、そこらへんで」
「おう由。ちょっと待ってな、音源だけ潰すから」
「分かった」
ゆかりぃん!? と長谷川の悲痛な声。だってもし俺がランクインしてたらあれがBGMになるかもしれないんだろ? そりゃ嫌だよ。一秀がウォークマンを踏みつぶすと、ぴたり、音は止まった。最後に果てる声が聞こえたんだが。やめろよなんか気まずいだろ。疲労感を感じげんなりとする。一階の舞台前の席にぐったりと腰を掛ける。
さめざめと泣く長谷川に、三浦はため息を吐く。お前他人事みたいな顔してるけど明らかに加害者の一人だからな。
俺と一秀の無言の圧に耐えかねたのか、三浦は大人しく進行をする。これまた余談だが、橙はしっかり俺の傍で控えている。やはり視線がうるさい。
「はい、じゃあコメント読みあげまーす」
○畠 一秀
『カッコいい!』
「ありがとうな。来年にはうちの愚弟が桜楠学園に入るらしいから安心なんだが……。由はすぐ無茶するから目が離せねぇな。俺の分までしっかり見守ってやってくれ」
『由を包み込む包容力!』
「由は人に頼ろうとしねぇからな。言わない部分も察して動けるようありたいと思ってる。早く修二もそうなってくれたらいいんだが……。来年までに仕込むか」
∴「俺に票を入れてくれたお嬢さん方、ありがとな。ったく、由は無茶ばっかりするからいけねぇ。これからもあの無茶するうちの坊ちゃんをよろしくな」
できる範囲のことしかしてねぇし……。まぁたまに無理を押すことはあるがそれは必要なことだからやむなしというかなんというか……。うん……、気を付けます。
「お次は三位の発表だよー!!!」
お。長谷川は復活したのか。三浦はなら、と寝る体勢に入る。仕事しろ。
「第三位!!」
鳴りだすドラムの音に安心する。よかった、ドラマCDじゃない。一秀に感謝しておこう。
「一匹狼のくせになんだかんだ犬! 地味ぃに面倒見のいいところが人気の由縁か!? 二村菖! 菖ちゃーん!!!!!」
「うっせぇダボ! 殺すぞッ!!! あ゛あ゛ッ!?」
ほんと、ウォークマン壊してもらってよかったなぁ……。思わず遠い目になる。二村はイライラとした様子でガタリと床に座り込む。落ち着かないのか、しきりに座り方に微調整をかける様子に、なるほどと気づく。二村のやつ、この企画に出るのが気恥ずかしいのか。とはいえ、司会の二人には知りようのないことなので、二人は怯えた様子を見せている。
「じゃ、じゃあコメントを読み上げるよー!」
○二村 菖
『とにかくいいキャラしてますねありがとうございます
可愛いです尊いです悶絶してますありがとうございます
由くんに彼シャツ的なことした時照れてたのかなって思ってめっちゃにやけてましたいちゃつけってめっちゃ思ってます
二村くんの狼犬見たいなの可愛すぎてっっっっっっっ()』
「かわ……? ハァ……? これ宛先間違えてんだろ……。ア゛? 合ってる? ……。彼シャ……!? 、げっほ、て、照れてねぇわッ! ……ンで俺がこんなこと言われねぇといけねぇんだよクソッ! 大体あいつがいきなり風呂なんか入りやがるから……!」
『由に拾われた(?)シーンがとてもすきで、他のキャラ達みたく好き!って感じではないけど、ちゃんと慕ってる、好きって気持ちが伝わってくるのですごく好きです』
「……まぁ、嫌いではない、し感謝もしてるな。……嫌い、ではない」
『全員のお母さんになれそう、苦労性だけど実はそれも悪くないって無意識に思ってる』
「あんなやつら産みたくも育てたくもねぇわ。あいつらまともそうな顔してとんでもねぇことばっかやりやがる……はー……。世話にはなってっからその分を返してぇとは思うけどな」
『不意に見せる素直な大型犬な感じがかわいい』
「っ、だから俺はかわいくねぇ! でけぇだろうが! かわいいってぇのは……見てると世話を焼きたくなるようなそういう危なっかしいやつのことをだなぁ……ッ! ……ん? あ」
∴「とりあえずかわいいっつったやつは表出ろや」
おいコラ喧嘩を売るのはやめなさい。ステイ。二村ステイ。
(3/10)