あの夏の日を忘れない
プロローグ
 激しく場違いな気がする。そう思った回数はもう20回を超えた。

 高校二年に進級する春、俺はようやく通いなれてきたところだった千頭〈せんず〉高校ではなく、山奥にどんと構えている桜楠〈おうなん〉学園高校の門の前に立っていた。一国の城を守っているかのような門構えには、入ったら最後出ることができなさそうな不穏な空気を感じる。

 門を見上げていると、家を出たと同時に染めたばかりの金髪がはらりと目にかかった。少し視界が悪くなって目を細める。…うっとうしいから前髪、後で切ろうかな…?

「椎名 由〈しいな ゆかり〉さんですか…?」

 そんなことを考えている間にお迎えがきたようである。というのも、俺がここにいるのはこの桜楠学園高校に編入したので理事長のところまで送り迎えしてくれる生徒を待っていたからだ。ちなみに門は内側からしか開かない。

 ちょうど今日が編入日で、明後日には始業式があるらしい。
 ちなみに明日は入学式があるそうだ。入学式は一部を除いて上級生が出席する必要はない。

 一部、というのは理由があって、役職持ちの生徒は式典に際して新入生歓迎のあいさつがあるため出席しなくてはならないのだ。とは言え、桜楠学園は小学校から高校までのエスカレーターだから顔見知りばかりであるのだが。

 ま、役職持ちってことはこの目の前の生徒さんは明日出席確定なんだろうな。先ほどおずおずと声をかけてきた生徒の腕についている腕章にちらりと目をやりながらそう思う。腕章には『生徒会』という文字があった。

「お待たせしました、生徒会副会長補佐の田辺 流〈たなべ ながる〉です。お迎えに上がりました」

 低い落ち着いた声が涼しげな川のせせらぎを思わせるような、そんな人。常人とは違う空気を持ったその人は、俺を見てきれいにほほ笑んだ。

 ああ、そうそう。大事なことを一つ言い忘れてた。ここの学園は山奥にあるという環境から、全員が寮に入るという制度をとっている“男子校”である。

 むさ苦しいことこの上ない。






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