32 告白


…微かに声が聞こえる。
この声…聞いたことあるなぁ…
他にも、初めて聞く声や、泣いている声が聞こえる。
そうだ…私あの後、気絶しちゃったんだ。

―大丈夫よ、死んでないわ。

そう訴えるように、私はゆっくりと瞼を開けた。


「ハルカ!?」


すると目の前に、私に瓜二つな女の子の顔。


「サ、ファ…イ、ア…」
「よかったと…意識取り戻して…っ。あたし、すごく心配して…っ」


どうやら私は今、病院に備えられてるベッドに寝ているらしい。
サファイアの顔を伺うと、目が赤く腫れていた。
どれだけ私の為に、泣いてくれたのだろう。
遠いホウエンから、来てくれた。
それだけで…私の胸は嬉しさでいっぱいだ。


「ありが、とう…助けて、くれて…」
「お礼なら、そん人に言うったい!」
「えっ?」


"そん人"…って?
サファイアが「ほらっ!」と、声のした方へと視線を向けると―



―緑色の髪と、新緑の瞳を持つ彼の姿。



「シュウ!?」


私は思わず、ガバッ!とベッドから起き上がってしまった。
そのおかげで、左足に激痛が走る。


「…っ!!」
「あっ!ほら、安静にせんと!」


サファイアがゆっくりと、私をベッドに寝かせてくれた。


「…どうしてシュウがここに?」


急いで毛布で顔まで隠す。
…シュウにこの姿、見られたくなかったな。
あの時連絡したのは、サファイアだけのはず。
それなのに…なんで?
疑問ばかりが浮かぶ。


「君のアゲハントとエネコが僕に知らせてくれたんだ」
「そんおかげで、早く病院へ運べたとよ」


真剣な眼差しで私を見つめるシュウと、安心した。と微笑むサファイア。
思わず、シュウから目を逸らしてしまった。
…シュウが見れない。
そんな思考が頭の中に巡っていると、二人の後ろに立っている男の子に気付いた。
赤を基調にした服と帽子に、紅色の瞳を持つ男の子。


「その人は…?」
「ん?あぁ、こん人はルビーったい。一緒に来てくれたとよ」
「ルビーです。初めまして」
「は、初めまして…」


ペコッと急いで頭を下げる。
サファイアより少し高くて、シュウと同じくらいの身長。


「サファイアが"緊急事態と!!"っていうから驚いたよ。…まぁ、サファイアが"緊急事態"ていう言葉を知っていたことに一番驚いたけどね」
「なんね!あたしもそれぐらい知ってるとよ!」
「漢字は読むのも書くのも苦手なくせに?」
「せからしか!」


不敵に笑うルビー君に、ルビー君に反発するサファイア。
その様子がなんだか…私とシュウみたいで。

―いつの間にか。

「…フフッ」
「「「あっ…」」」
「え?」


三人の言葉が重なった気がした。
なんだろう…?


「やっと笑ったと!」


ニカッと可愛く笑うサファイアに、シュウとルビー君も微笑んでいた。

―そうだ。

この時間に笑ったのは、初めてだ。
私は自分の頬をおそるおそる触った。
冷たくて、気持ちがいい。

コンコンッ


ドアのノックの音が、部屋に鳴り響いた。


「失礼」


すると白衣を羽織った30代位の男性が入ってきた。
多分、この病院の先生だろう。


「ハルカさん、でしたね」
「はい…」
「検査の結果ですが…全治二ヶ月ぐらいですね」
「グランドフェスティバルには、間に合いますか!?」


ここで出場出来なかったら、今まで頑張ってくれたポケモン達の努力を無駄にしたくない。
今度こそ、ライバル達に勝って、優勝するんだ。

―トップコーディネーターになるんだ。

それを水の泡にしたくない。
真剣に先生を見つめると、先生はにこりと微笑んだ。


「大丈夫ですよ。グランドフェスティバルまで三ヶ月ありますから、それまで完治します」
「よか…った〜…」


安心して、力が抜けた。
グランドフェスティバルまで間に合う。
それだけでも、嬉しい。


「しかし。安静にしていて下さいね。あまり無理なさらずに。では、失礼」


先生は踵を返し、部屋を出た。
二ヶ月…結構長いな〜…
その期間ほとんどベッドで過ごすなんて。
慣れるかしら?


「そうやハルカ。ハルカの「ハルカ」


サファイアの言葉を、消すように重ねてきた低い声。


「話があるんだ」


低く、だけど凛とした声で言葉を紡ぐシュウ。



―その真剣な眼差しに、ドキンと私の胸がうるさい程鳴った。



話…って?


「…ロビーに行こうか、サファイア」
「…そうやね」


そこにルビー君とサファイアが部屋を出た。
部屋の中が、しん…と静かになる。
何を言うの、シュウ…?


「ハルカ」


静寂な部屋の中、低いシュウの声でも、はっきりと聴こえる。
そしてもう一度呼ばれた、私の名前。


「何?」


私はすぐに返事して、次の言葉を待った。
ねぇ、何を言…



「好きだ」
「……………え?」



―真剣な眼差しで私を見つめてくるシュウに、私は見つめ返すしか出来なかった。




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