29 知りたい


「今日のコンテストお疲れ、二人共」
「ありがとう」
「サンキュー」

コンテストが終わり、私はシュウとリオとの三人で一緒にいる。
リオと二人で会場近くのベンチに座って、今日のコンテストの反省などを話していると、シュウが来たのだ。
シュウがこちらに来た瞬間、リオの顔が真剣な顔付きへと変わった。
初めて二人が会った時もそうだったな。
どうしてお互い、冷めた視線を向けるんだろう?
二人の中に、何かあったのかな?
そう思いながら、私は今日のコンテストで頑張ってくれたみんなにポケモンフーズを与えていた。

「ハルカはこの後どうするんだ?」

ふいにリオが私にそう問うてきた。

「グランドフェスティバルまでは特訓するつもりよ。今回のグランドフェスティバルの場所は確か…」
「シロガネ山で開催されるよ」

口籠る私に、シュウが続けて言った。

「シロガネ山で?そうなんだ。知らなかった」
「グランドフェスティバル開催の場所も知らなかったのかい?まったく君は…」
「何よ!今知らなかっただけじゃない!!」
「…論点はそこじゃないんだけど」
「ふーんっ!!」

シュウから視線を外し、そっぽを向く。
あぁ。また素直じゃないな、私。
二人きりならまだいいけど、今はリオがいて、人前で口喧嘩はしたくなかったのに…。

「俺も知らなかったぜ。お互い様だな、ハルカ」
「あはは、そうかも!」

なっ?と笑顔を私に向けてくれたリオに、救われた。
そう笑っていた私は、私に向けていたシュウの真剣な眼差しは気付かなかった――。



*+*+*+


あの後ポケモンセンターへ行って、センター内のレストランで夕食を食べて部屋に戻った。
お気に入りのパジャマに着替えて、ベッドにダイブした。
5つのリボンもゲットしたし、私はこのままシロガネ山へ向かうつもりだ。
まずはフスベシティへ行って、食料など買わないと…
そう思っているとふいに、シュウの顔が頭に浮かんだ。
今日のコンテストの一次審査の前、緊張していた私を落ち着かせてくれた。
すごく嬉しかった。
そのおかげで緊張もせず、自分通りの演技が出来たから、リボンも獲得した。
…そんなことされたら、期待してしまう。
もしかして、私に興味あるの?って。
恋愛対象として、見てくれてるのかも。って。
この思い、今すぐ伝えたい。
"シュウが好き"って。
……でも、駄目。
もうすぐグランドフェスティバル、彼の調子を崩してしまう。
それだけは何としても避けたい。

コンコンッ

突然、ドアの音が部屋に響いた。
誰だろう…?こんな時間に。
そう思いながらも、私は寝転がした体を起こし、ドアへと近づいた。

「…はい?」

ゆっくりとドアを開けるとそこには、

「入ってもいいかい?」

いつも聞き慣れた低い声。
緑色の跳ねた髪の人物がドア越しに立っていた。

「シュウ…?」
「あぁ」
「ど…どうぞ」
「お邪魔します」

いつものジャケットではなく、紫色のジャージ姿のシュウ。
ジャージでも、かっこいいと思う。
シュウは部屋へ入ると、地べたに座った。

「あっ、椅子に座っていいよ」
「いいよ、ここで」

私にそう言って少し微笑んだ彼は、本当に綺麗だなと思った。
シュウがいいって言うなら、いいかな。
そう解釈して、私も地べたに座った。

「で、どうしたの?」

シュウの緑色の瞳を見る。
綺麗な緑色…といつも思う。
そう問うと、彼はその瞳を閉じながら――

「君には、好きな人がいるのかい?」

こう言った――。
…今、なんて?
好きな人がいる…
好きな人…
好きな…

「え、えぇぇぇぇぇ!?!?」

私は隣の部屋に響くぐらいものすごく叫んでしまった。
出さないといけない、気がした。

「…うるさい」
「だって、シュウがいきなり…!」

突然そんなこと言うからでしょう!?
誰だって驚くわよ!!
私は動悸が激しくなるのを自分の中で感じた。
すぅっと、落ち着かせるために息を吸った。

「…で、いるのかい?」
「っ!!」

真剣な眼差しで私を見つめるシュウに、思わず視線を逸らした。

「…っ、言わなきゃいけないの?」
「名前は言わなくていいからさ」

…そういう問題じゃないと思うんだけど。
だけど…いきなりどうして?
好きな人にこんな事聞かれるなんて、思いもしなかった。
一回も考えた事がない。
私は意を決して、シュウに向き合って――

「…いるよ」

そう、告げた。
あなたのことなんだけど。と、心の中で呟いて。
告げたら怖くなって、目をギュッと瞑った。
しばらく沈黙が続く。

「…?」

おそるおそる目を開けると――シュウが私を慈しむように見つめていた。

「そっか…いるんだね」

――だけど悲しそうに笑って立ち上がり、シュウは部屋を出ろうとドアの方へ歩いた。

「シュウ」

私は慌てて小さく弱い声で呼び止めると、

「あ、そうだ」

私の方へと振り向いて、強くはっきりと言った。

「僕も好きな人がいるから」
「えっ」
「それじゃあ」

そう告げて、静かにドアを開けて部屋から出て行った。
一方、私は――

「はっ…えっ?」

頭の中がごちゃごちゃになってしまった。


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