22 変化

最近、サファイアの様子がおかしい。
バトルしてほしいとか、フィールドワークを手伝ってほしいとか、また僕が用事があってもすぐに来てくれた。
しかし、この最近の彼女はというと…



*+*+*+



『おはよう、サファイア』
『お、おはよう』

朝起きて、隣の家に住んでいるサファイアに挨拶するのが僕の1日の始まりである。
いつものサファイアなら元気よく「おはよう!」って返すのに、今回は少し戸惑っているようだった。
何かあったのかな…?

『どうしたの?何かあった?』
『い、いや!何でもないったい!』

バレバレだ。
サファイアは嘘をつくのが人一倍苦手だから。
正直で感情に素直で。
まぁ、それが彼女の魅力だけれど。
だけどそれ以上聞かなくてもいいと思い、サファイアに向き合った。

『今日さ、暇ならミナモデパートに行かないかい?新しい布を見たくなっちゃって』
『す、すまんち。今日は用事があるけん』
『あー…そっか…』

用事があるなら仕方ないけど、目線を逸らしながら話されるのは少し傷つく…

本当に何があったんだろう?

『じゃ、じゃあ!そういうことやけん!』

そう言って、ものすごいスピードでサファイアは去っていった。

『何なんだ…?』

僕の小さな独り言が虚しく零れるだけだった。



*+*+*+



それから、そのようなやり取りが日々続いた。
なんだか僕を避けているような気がする。
一人でいる秘密基地や自分の部屋が、すごく寂しかった。
彼女のお日様のような香りが恋しい。
…いいや、彼女の全部愛しい。
まだ"自分のことを許せてない"という理由で、彼女の告白を"なかったことにした"こと。
本当は、今すぐに返事がしたい。
僕は「今」の君が好きだって。
野生児や、汚れを嫌わないところがあるけれど、可愛い物を見つけた時の輝いた藍色の瞳、サラサラの亜麻色の髪。
全てが好きだと伝えたい。
…でもまだダメだ。
これは僕の我が儘だ。
ごめんね、もう少し待って。
僕の気持ちは変わらないから。
だから…待っていて。
君が…―サファイアが好きだから―。
一人秘密基地でサファイアの服を縫いながらそう思っていた。



*+*+*+



「ふぅ…」

あたしはちゃも達と特訓し終わり、家に着いた。
ここ最近は特訓やフィールドワークを繰り返す毎日。
だから、ルビーに会っていない。
時々電話が入ってきたりするけど、用事があるなど適当な理由で断ってきた。
本当は、会いたい。
でもなぜかわからないけど、今ルビーに会ってはいけない気がしてしまう。
あたしをからかう口調、汚れを嫌うところ、美しいものが好きなところ。…だけど、毛繕いをしている時の優しい紅色の瞳、本当は優しいところも。
あたしは「今」のあんたが好きだって。
全てが好きだって伝えたい。
"あの時"の告白をはぐらかしたって、隣にいたい。
あたしの気持ちは変わらないから。
だから…あんたの隣にいたい。
あんたが…―ルビーが好きだから―。



ハルカの話を聞いた時、嬉しい気持ちと羨ましい気持ちの半々だったのを感じた。
自分の友達の恋を応援したいのは本心だ。
電話越しのハルカの声が恥ずかしそうで嬉しいような声だったから、本当によかったと思った。
でも、すごく羨ましかった。
好きな人とあんな風になったから。
あたしも…って期待してしまう。
だから、かな。
あたしも頑張ろうと思う反面、変に空回りしてしまう。
どうしよう…と思いながら、あたしは眠りについた。



*+*+*+



「おはよう、サファイア」
「おはよう、父ちゃん」

一階へ降りると、もう朝食を食べ終わり、白衣を着てフィールドワークへと向かおうとする父・オダマキがいた。
この最近は、あたしが朝食を作っている。
最初は無様な物しか作れなかったが、段々と腕を上げてまともな物を作れるようになった。
でも珍しく寝坊してしまった。
あたしにしては本当に珍しい。
いつも早起きなのに。
昨日眠れなかったからかもしれない。

「朝食は作っといたから。食べなさい」
「うん…」

寝ぼけていたので、顔を洗おうとした時、

「ルビー君がサファイアに用があるって」

ピタッとあたしは止まってしまった。
ルビー、という名前に反応してしまった。

「秘密基地で待っているってさ」
「…わかったと。ありがとう」

返事をして洗面台へと向かう。
ずっと会っていない彼、ルビー。
行けるかな……
難しく考えながら、あたしは顔を洗った。



「ごちそう様でした」

パチンと手を合わせ、食事に終わりを告げる。
お皿を洗って、ソファーに座った。
父・オダマキはもうフィールドワークに行っていない。
あたしはパートナーのちゃもとマイナンと一緒に遊んでいた。

「……」

行った方がいいのだろうか。
会いたい。けど、会えない。
喧嘩なんかしてないのに。
なのに、どうして?
どうして避けるような態度をとってしまうの?
俯くあたしを、ちゃもとマイナンが心配そうに見つめてきたので、ハッとした。
マイナンはあたしの頬に頬擦りしてくれた。
ちゃもはあたしの頭を撫でてくれた。

「大丈夫ったい。ありがとう」

笑顔をちゃもとマイナンに向けた。

「…散歩しようったいか」

するとちゃもとマイナンは笑って頷いてくれた。
家の外に出ようとドアを開けると。
体が強張った。

「っ」

目の前に、ルビーがいたから。


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