19 二人で
「サオリさん…変じゃないですか?」
「いいえ、とっても素敵よハルカさん」
ニコッと紺色の浴衣に水色の帯を巻いたサオリさんが笑った。
長い桃色の髪を一つに結い、色っぽく見える。
改めてサオリさんは綺麗だと思った。
今私はサオリさんと一緒に浴衣を着つけもらっている。
少しお腹がきつかったが、ここは我慢した。
下駄も貸してもらえるらしい。
ちゃんと歩けるかな?
コツッと下駄の音が響いた。
「さあ、行きましょうか」
「はい」
*+*+*+
「あれ…」
「どうかしたの?ハルカさん」
サオリさんが心配したように声をかけてくれた。
「緑の髪…シュウですかね」
「?あら…」
私が指差した方向を見ると、シュウが歩いていた。
誰か捜しているのかな?
キョロキョロとしている。
「声掛けてみれば?」
サオリさんが笑顔で言ってきた。
「わ、私が!?」
「多分シュウ君、ハルカさんを捜しているから」
「え…」
それってどういう…
「さぁ、いってらっしゃい」
「わゎ!」
サオリさんに背中を軽く押される。
軽くだったから、転ばなかったけど。
慣れない下駄で、シュウの所まで急いで歩いた。
「…シュウ?」
小さめの声でポツリと呟くと。
シュウは私の方をゆっくりと振り向いた。
ドキンッ…と胸が鳴る。
あぁやっぱり、彼が好きなんだなと感じられる。
「…っ」
シュウが私を見て驚いているように見えた。
やっぱり…似合ってないかな?
この浴衣。
普段着ないから恥ずかしい。
「えっ…と、久しぶり」
「あぁ…」
気まずい。
すごく気まずい。
どうしよう。
誰か…この空気を変えて…!
顔を逸らしているこの状態がきつい…
「屋台、見てみないかい?」
突然、シュウの口が開いた。
「え…」
「せっかく来たんだ、回ってみようよ」
フッといつものように不敵に笑う彼。
不覚にもカッコいいと思ってしまった。
「うん…!」
私も笑顔になった。
空気が一瞬で和らいだ。
*+*+*+
わたあめ、かき氷、焼きそば、イカ焼き、チョコバナナ。
色んな食べ物があるけれど。
なぜか今は“あれ”が食べたくなった。
「おじさん、りんご飴1つ下さい」
シュウが屋台のおじさんに声を掛ける。
おじさんはすぐにりんご飴を渡してきた。
「はい、150円ね」
あっ、お金…
巾着袋から財布を取り出そうとすると、シュウに止められた。
「えっ?」
「おごるよ」
「え、でも…」
「いいから」
すでにシュウがお金を払ったらしく、シュウの手にはりんご飴があった。
そして私に渡される。
「はい」
柔らかな微笑みが、すごく優しい。
シュウってこんな笑い方をするんだな…
「あ、ありがとう」
戸惑いながらりんご飴を受け取った。
カリッとりんご飴をかじる。
甘くておいしい。
「シュウは食べないの?」
「僕は少し食べてきたから」
「ふーん…」
そう返事をして、周りを見回す。
周りには、人、人、人。
人が多すぎる。
すぐに迷子になりそうだ。
そう思い、隣にいるシュウに視線を戻すと。
「あれ…」
隣に居るはずのシュウが。
いない。
いないのだ。
「シュウ…どこ?」
私はその場に一人立ち止まってしまった。
*+*+*+
「ハルカ…!」
僕が目を離した隙に、ハルカがいなくなった。
懸命に走って捜す。
しかし人が多すぎて、なかなか見つからない。
周りを見回すと…見覚えのある人影が見えた。
あれは…
「サオリさん!ハーリーさん!」
紺色の浴衣を着ているサオリさんと、普段の緑色の服のハーリーさんがいた。
「あら、シュウ君」
「どうかしたの?」
汗だくの僕を見て二人は心配そうに見ていた。
僕は膝に手をついて息を切らしていた。
「ハルカとはぐれてしまったんです」
「え!」
「そうなの!?」
驚いた顔になる二人。
「ポケナビに連絡は?」
「かけても繋がらなくて…」
「確か置いていったのよ、ハルカさん」
「もう!何で置いていったのよあの子は!」
プンプンと怒るハーリーさんに、心配そうに手に頬を添えるサオリさん。
「とにかく、僕はハルカを捜します」
「アタシ達も捜すわ」
「えぇ」
「ありがとうございます」
こうしてハーリーさんとサオリさん、僕で二手に分かれてハルカを捜し出した。
[ 20/33 ][*prev] [next#]
[bkm]