18 お祭り
タンバから船に乗って。
アサギシティへと私は戻っていた。
アサギの灯台がまるで私を迎えてくれてる気がした。
*+*+*+
アサギの町を歩いていると、見慣れた人影が見えた。
あれは…
「サオリさん?」
「あら、ハルカさん。久しぶりね」
桃色の綺麗なロングヘアーを持つ、サオリさんだ。
サオリさんは服屋の前で服を見ていた。
いくつかの服を持っている。
「何を見ていたんですか?」
「浴衣をね、少し」
「浴衣?」
そういえば町が賑やかだなぁと私は思った。
それに屋台並んでいて、何かイベントがあるのかなと思った。
もしかして…
「お祭り…ですか?」
「そうみたいね。あっ、そうだハルカさん」
サオリさんが柔らかな笑みを浮かべて言った。
「ハルカさんも浴衣着てみない?」
「へっ!?私が!?」
「せっかくのお祭りだもの。着てみましょう。私も着るから、ね?」
ニコッと笑うサオリさんに、私は少し困ってしまう。
「でも私、お金…」
「大丈夫よ。ここ無料で借りることができるから」
今いる服屋を指さす。
そこには色んな浴衣が飾られていた。
私もさすがに…折れました。
「わかりました…着ますね」
「ありがとう、ハルカさん」
フフッと笑うサオリさんに、私もつられて笑った。
*+*+*+
「ふぅ…やっと着いた」
僕は今アサギシティにいる。
今日ここでお祭りがあるらしい。
もともと人混みが嫌いなので、自分から行こうとは思わない。
なぜここに来てるかって?
それは…今から数時間前…―――
『あら、シュウ君じゃない!』
『…こんにちは』
よりによって、この人に会うとは…
今日はついていない。
すぐその場から去ろうとした時、
『ちょっと待ちなさい』
ハーリーさんに止められた。
まったくいつも邪魔ばかり…
『なんですか』
いつもより低い声で答える。
『そう怒らないでほしいかも!…いい情報よ』
珍しくハーリーさんが真剣な顔で見つめてきた。
迫力が凄まじい。
『かもちゃんがアサギシティにいるらしいの!』
ピクッ
かもちゃん。
ハーリーさんがそう呼んでいる、彼女。
…ハルカのことだ。
いつも笑顔を絶やさない…けど少し弱い女の子。
僕の"一番のライバル"。
僕の反応に、ハーリーさんは満足したような笑みを浮かべていた。
『タンバ大会を優勝して3日経っているってことは、アサギにいる可能性が高い。それに、アサギではお祭りがあるのよ!お祭り好きのかもちゃんが見逃すわけがないかも!』
オ―ホッホッホッと高く笑うハーリーさん。
僕はただ呆然としていた。
確信がない推理だな…
『と、いうわけで!アタシはアサギに行くわ!それじゃあね―シュウ君!』
『あ、ちょっ…!』
風のように走り去るハーリーさんに、また呆然としてしまった。
まったく、美しくない。
『……』
だけど。
自然に顔が緩む。
ハルカがアサギにいる。
ハーリーさんが言っていることはだいたい当っているだろう。
それにお祭りより食べることに集中しそうだ。
ハルカは食べることが好きだから。
…まったく。
どれだけ僕がハルカに惹かれているんだと感じられる。
ここからアサギはそう遠くない。
無意識に僕は、アサギシティの方向へと歩いていた。
*+*+*+
そして、現在に至る。
アサギシティには着いたものの、ハルカがどこに居るのかわからない。
…電話をしようか。
僕から交換しようと思ったけど、勇気がなくて。
ずっと交換できなかった。
すると彼女から「交換しよう」って声をかけてくれた。
本当に彼女には…敵わないと思った。
「…シュウ?」
ほら、今だって君から…
…えっ?
声がした方向に振り向くと。
「…っ」
―そこには赤い生地に椿の花があしらった浴衣を着たハルカがいた―。
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