今はライバル(シュウハル)


「…我ながら本当に情けない」

昼過ぎのポケモンセンター内の部屋で、一人ベッドに寝転がりポツリと呟く。
一人用だからといって、充分広い部屋に僕が呟いた言葉は虚しく響いた。
何故昼にポケモンセンターの部屋のベッドで寝転がっているかって?
理由はただ一つ。


昨日高熱を出し、久しぶりに僕は風邪を引いたからである。


幸い、今回泊まっている町ではコンテストは開かれてなかった。
しかし風邪を引くと、体の倦怠感が急激に襲い掛かり体調を万全に治すまでに時間が掛かるから、本当に引きたくない。
旅をしているから体調管理は大切なのに、気が緩んだのか引いてしまった。
……我ながら本当に情けないと思う。

「ロズレイド、アブソル。ありがとう」

僕の看病をしてくれているロズレイドとアブソルにお礼を言う。
ロズレイドとアブソルは、"気にしないで"と優しく微笑んでくれた。
一日交替でアメモースとフライゴン、バタフリーも一緒に看病してくれた。
僕のパートナー達は、本当に心優しいポケモンだと改めて思った。
ロズレイドが僕の額に濡らしたタオルを優しく置いてくれた。
ジョーイさんから貰った風邪薬をきちんと飲んでいるが、なかなか熱が下がらない。
早く風邪を治して皆とコンテストの調整をしたいのに、この体の状態ですると必ず悪化する。
現にポケモン達もずっと僕の看病をしてくれていて、コンテストの調整をしたい筈だ。
そう思い皆に伝えて謝ると、皆は首を横に振り"大丈夫だよ"と微笑んでくれて、""今はゆっくり休んで"と僕の頭を撫でてくれた。
僕のパートナー達の優しい心を持っていることを強く感じた。


―そんなやり取りを何回繰り返したのだろう。


はぁ、と皆に申し訳ない気持ちがいっぱいになり自分が嫌で深い溜め息を吐く。
気分転換にと窓越しに外の景色を見ると――。


「え…っ?」


ポケモンセンター付近の小さな広場で、緑色のバンダナを被っている少女を見つけた。
華奢な体型、さらさらの細い茶色の髪に綺麗な青い瞳。
間違いない。
あの少女は―ハルカだ。
ハルカは彼女のポケモン達と一緒にコンテストの調整をしていた。
最近ハルカにコンテスト会場で会う機会が無かったから、久しぶりにハルカを見た気がする。
どうしよう。

ハルカに会いたい。

直接会って、ハルカと話したい。
僕の心がそう言っている。
会えなかった期間が長い程、君がこんなにも恋しいだなんて。
きっとこれが惚れた弱味なんだろうな。と自分を納得させ、体を起こそうとした。
しかしずっと寝込んでいた為か体がフラフラし思うように動けず、ましてや歩けない。
その様子な僕を見たロズレイドとアブソルが、慌てて僕の体を支えてくれた。

「ありがとう…ロズレイド、アブソル」

今起き上がった衝動なのか、更に体が熱くなるのを感じる。
ロズレイドとアブソルは、急に赤くあった僕の顔を見た瞬間慌てて"早く寝かせよう!!"と、僕を素早くベッドに寝かせた。
だけど今すぐにハルカに会いたいのに、僕の体が言うこと効かない。
君の声が聴きたい。君の笑顔が見たい。

―ハルカに会いたい。


「ロズレイド…お願いがあるんだ…――」

そうロズレイドに伝えて、僕は意識を放した。


*+*+*+

「アゲハント、"ぎんいろのかぜ"!!」

ある町のポケモンセンター付近の小さな広場で、私はポケモン達とコンテストのトレーニングをしていた。
この町ではコンテストは開催されていなかったけれど、トレーニングを欠かしてはいけない。
グランドフェスティバルで優勝し、トップコーディネーターになるために。

―一番のライバルに勝つために。

目標があるから、私は頑張れる。
そう思い出しだすと、更に気合いが入った。

「よしっ!頑張ろうアゲハント!! そのまま"ぎんいろのかぜ"に"サイコキネシ"…」

私の気合いの入った声に"もちろん!!"とアゲハントが頷く。
先程アゲハントの羽から繰り出されたりんぷんの乗った銀の風に、エスパー技の"サイコキネシス"を指示しようとしたその時―。


「ロズレ!!」
「えっ…!?」


突然私達の前に、両方の手に綺麗な赤と青の薔薇を持つ緑色のポケモンが現れた。
このポケモンは、ロズレイドだ。
そのロズレイドは、普通のロズレイドより全体的に綺麗に輝いている…シュウのロズレイドに似ている。

「もしかして、シュウのロズレイド?」
「ロズレ!!」

ロズレイドは"そうだよ!!"と頷く。
だけどシュウのロズレイドは何故だか分からないけど、すごく慌てている。
どうしたの…ロズレイド?

「ロズレ!!ロズレー!!」
「買tォー!?」
「えっ…どうしたの!?」

早口でロズレイドがアゲハントが何かを話して、アゲハントがすごく驚いていた。
そしてそれと同時に、二匹に強く腕を引っ張られる。

「わゎ…!どうしたの!?アゲハント、ロズレイド!!」
「フォー!!」
「ロズレ!!」

二匹は"今はそれどころじゃない!!"と言っているようで、私は何も言えなかった。


*+*+*+

「ここって…」

アゲハントとロズレイドに強引に引っ張られ、連れてこられたのはポケモンセンターの宿泊部屋だった。
でもここは私が予約した部屋ではない。ということは…


「シュウがいるの?」
「ロズレ!!」
「えっ、ちょっ!?」


"うん!!"とロズレイドが頷くと、ロズレイドは私をそのまま強引にシュウがいる部屋にへと引っ張った。
私とシュウを会わせる為?別にどこかのコンテストで会えるかもしれないのに。

「もう!シュウがいるからって、わざわざ知らせに来てくれたの…ね」

そう告ごうとした瞬間、部屋の光景に驚きを隠せなかった。

―だって、シュウが苦しそうに顔を赤くし、部屋に備えられているベッドに寝ていたから。


「シュウ!?」


まさかあのシュウが風邪!?
もしかしてアゲハントとロズレイドが慌てていたのって、シュウが風邪引いて悪化しているから私に助けを求めて…
…うわぁ。さっきまで馬鹿な思考をしていた自分がすごく恥ずかしい…
と、とにかく!今はそれどころじゃない!!

「シュウ、大丈夫?」
「―ハルカ…?」

シュウの額に置かれたタオルを外し、手を当てる。すごく熱い…
私の名前を小さく苦しそうな声で呼ぶシュウ。いつもの緑色の瞳は、ひどく脆い。
ベッドの周りを見渡すと、体温計に氷枕や何枚かのタオルなど…シュウのポケモン達が看病してくれてたんだ。

「薬きちんと飲んだ?あっ、その前にご飯食べた?汗掻いていない?汗掻くと体冷えちゃうから…ロズレイド!そこにあるタオルを取ってくれる?」
「ロズレ!」

近くにあったタオルをロズレイドから受け取る。
「ありがとう」と言うと、"ううん!"と微笑んでくれた。
一応、私も一人旅をしているから体調管理は気を付けている。
初めてジョウトで一人旅をすることになったから、ママから風邪などの病気の応急処置を学んだ。
少ししか力になれないけど…シュウが早く治るように精一杯しよう。

「ごめんね、汗は自分で拭いてくれる?」
「あぁ…」

シュウにタオルを渡し、額に置いていたタオルをまた濡らして絞る。
後することは、熱を計ってご飯を食べさせて薬を飲ませて寝させる…と。
…ご飯はジョーイさんに作ってもらおう。私が作った物を食べると必ず悪化する。
一人旅をするからママに料理を習ったけど、美味しく作れる料理なんて数えられる数しかない。
そう頭の中で整理すると、ふいに私の手に何かが触れた。
えっ。と自分の手に視線を向けると、触れていたのはシュウの少し熱びいてる手で。

「ど、どうしたの?」
「――…とう」
「えっ?」

何て言ったか分からず、もう一度聞こうとシュウに視線を向けると――


「来てくれて、…ありがとう」
「…!!」


シュウは今にも崩れてしまいそうな緑色の瞳で、優しく微笑んでそう言ったのだ。

―その微笑みが、すごく綺麗で。

なんだか顔が熱くなり恥ずかしい気持ちになったので、思わずシュウの手を離した。

「べっ、別に大丈夫よ!あっ、私ジョーイさんにお粥作ってもらえるか聞いて―」

逃げるようにそう言い立ち上がろうとした時、そこで私の声は途切れた。


――だってシュウが私の手を引き体を引き寄せ、私を抱き締めていたから。


勿論、私は大パニック状態。

「シュ、シュシュシュシュシュウ!?」
「ごめん。…あの」
「な、何…?」

何を言うの…?と思い、シュウの顔に視線を向けると目が合った。
私を見て優しく微笑んで、

「僕から離れないで」
「え、でも…」
「風邪が移るかもしれないけど、僕は…」


「ハルカと一緒にいたいんだ」


――彼はそう言ったのだ。


なんて甘い言葉。私はそれに惑われそうなの。
だけど、今は"病人"兼"ライバル"の願望として聞いてあげる。
このドキドキする"キモチ"に気付くのは、きっと遠くないのね。
私があなたに惹かれるまでは…ね?








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