春の香りに誘われて(ルサ)
暦ではすでに春なのに、最近は本当に寒い日々が続いた。
風は冬並の冷たさで、日向にいても体は冷えていた。
そんな日々が終わり、ようやく春の暖かさが訪れた。
そしてその暖かさを待ち望んだかのように、もう少しで咲きそうな花の蕾が、開き出した。
―そんな中、サファイアは父―オダマキ博士の手伝いで、フィールドワークをしており、ミシロ付近の森にいた。
「ふぅー。やっと暖かくなったとね」
ホウエン地方は他の地方より暖かいが、このホウエンでもずっと寒い日々が続いていた。
そしてやっと到来した春の暖かさ。野生のポケモン達も、嬉しそうに日向ぼっこをしている。
そんな様子を見ていると、サファイアの頬も思わず緩む。
「…さてと。もう帰ろうった………ん?」
家へ帰ろうとした瞬間、サファイアはそれを見つけた。
「うわぁ…!」
"それ"を見た瞬間、思わず感嘆の声が出た。
そして"それ"に誘われるかのように、サファイアはゆっくりと距離を縮めていった。
*+*+*+
「まったくあの子は…どこに行ったんだか」
赤を基調とした服と帽子を身に付けた、紅色の瞳を持つ少年―ルビーは、サファイアを捜していた。
彼女の父―オダマキ博士から、「まだサファイアが帰ってなくてね。ルビー君知らないかい?」と言われ、ルビーは現在サファイア捜索中。というわけである。
あの野生児のことだ、フィールドワークで体が土などで汚れているだろうな。と思いながら、ルビーは森の中を歩いてた。
普段彼は自分から森の中に入ろうとしない。
理由は簡単。"汚れるから"。
美しさ至上の彼にとって、汚れるのはなんとしてでも逃れたい程嫌なのだ。
…"彼女"を捜す時―サファイアに会いに行く時だけは例外だが。
本人も知らずに微笑んでいることに気付かず、ルビーは父―センリから貰ったランニングシューズを履いて、森の奥へと走り出した。
*+*+*+
森の出口らしき所があり、そこを通って抜けると…
「Wao…!beautiful!!」
―そこには、広大な花畑が広がっていた。
たんぽぽやチューリップ、シロツメクサやマーガレットなど、春を告げる花が一面に綺麗に咲き誇っていた。
春の暖かい風と共に優しく吹かれたのは、薄ピンク色の桜の花びら。
(もう…春なんだなぁ)
そう思いながら、もう一度花畑の方へと視線を向けると…
「あっ」
そこには、ルビーがずっと捜していた彼女―サファイアが花畑の中に座っていた。
ここの花畑のほとんどの花は赤や白に黄色で、青を基調とした服とバンダナを身に付けてるサファイアを見つけるのには、そう時間掛からない。
ルビーはゆっくりと、サファイアの元へと近づいた。
「サファイア」
「?!…あっ、ルビー」
サファイアはビクリッ!!と肩を上がらせて恐る恐る後ろを振り替えると、そこには彼女を見下ろしているルビーの姿。
いきなり後ろから声がしたので、サファイアの驚いた反応はわからないわけではないが…
「どうしたんだい?そんな反応」
「いや…ちょっとびっくりしただけとよ。すまんち」
えへへと苦笑いするサファイアに、ルビーは思わず吹いてしまった。
「な…っ!何がおかしか!?」
「いや…なんでもないよ」
先程のルビーの態度が気に食わないサファイアは、思わず顔を赤くしてルビーに歯向かうが、それでもルビーはクスクスと寧ろ笑い続ける。
これ以上苛めるのは可哀想だなと思い、ルビーは本題へと話題を変えた。
「どうしてここにいるの?」
「ん?あぁ、フィールドワークを終えて帰ろうとしたけんど、こん花畑ば見つけてずっとここにいたとよ」
フフッと優しく笑うサファイアに、ルビーもつられて微笑んだ。
(本当に…可愛いな)
―初めて会った時から変わらない、この花畑の花よりも輝いて見える彼女の笑顔。
この花畑のように、…ずっと咲き続けて欲しい。
「ねぇ、サファイア」
「なんね?」
「―…だよ」
「えっ?」
"なんて言ったと?"と聞こうとサファイアがルビーの方へと向くと―
「…!ん…っ」
唇に、温かくて柔らかい感触。
その甘い感触に、サファイアは溺れていく。
しばらくして、解放された。
恥ずかしさで赤くなったサファイアを離さないように、ギュッと抱き締めてルビーはもう一度、愛の言葉を紡いだ。
「大好きだよ」
―今も昔もずっと、君が好き。
(2013/5/3)
最近暖かくなって、近所を散歩している時に花を見て思いついた春ネタ。
でもまた寒くなりましたね(--;)
…あれっ。ほのぼのが書きたかったのに、いつの間にか甘も含んで…orz
恥ずかしさで死ねます←
ここまで読んで下さり、ありがとうございましたm(__)m