28


 数時間後、先に目を覚ましたのはアカギだった。
 ふと目を開ければ部屋は赤く染まっていて、夕方なのが分かった。
 首を回して隣を見れば、南郷が居た。
 眠っている。
 もう見慣れた光景だ。
 だが一度は圧し掛かった自分の隣でこうも無防備に寝ている姿にアカギは少しだけ眉を寄せる。が、寝顔を見ていれば、まぁいいかと思い直す。
 そのままゆっくりと顔を寄せて、唇を吸った。何度も。
 ヤバいな、と思ったのは束の間で、盛り上がってしまった気分はもう抑えようがない。
 暗くなってからと約束したのだからこれはルール違反だが、味見ぐらいなら良いだろうとアカギは南郷の唇を軽く舐めながら、Tシャツを捲り上げた。
 夕日に照らされる男の筋肉に興奮する自分が居ようとはまさか夢にも思わなかったアカギだが、今はそんなことどうでも良い。
 胸元まで引き上げて、露になった小さな粒を見詰める。
 男も乳首は感じるものなのだろうか、と自然な疑問を浮かべ、静かに突起に唇を寄せた。
 舌で転がすようにして舐める。
 するとピクリと南郷の肩が揺れた。

「ん・・・」

 起きてはいないようだが、アカギの行為に反応を示しているようだった。そのまま舐めたり吸ったりを繰り返せば、その粒は俄かに硬さを持ち始め、南郷の口から吐息が零れた。

「っ・・・」

 これは感じている反応だと思えば、アカギは喉を鳴らす。
 硬くなった乳首に歯を立ててみた。
 すると南郷はヒクリと喉を震わせてから、薄っすらと目を開ける。

「う・・ん・・・」

 ボンヤリとした視線を回して、それからようやく、胸元に顔を埋めているアカギに気付いた。

「ん・・アカギ・・・お前、何し・・てぇぇぇ!」

 状況に気付いて南郷は勢い良く起き上がった。
 それに押されてアカギは布団に尻餅を付く。

「っと・・・いきなり起きたら危ないじゃない、南郷さん」
「お、お、おま、な、何を」
「あぁ、ちょっとだけ味見」
「あ、ああ、味見ぃ!?」
「男も乳首は感じるんだね」

 サラリとそんなことをのたまう十三歳。
 南郷はハッと、胸が露出されているのを思い出したか、素早い動作でシャツの裾を降ろした。

「・・・もうすぐ暗くなるよ、南郷さん」

 それを見たアカギが、静かに妙な宣告をする。覚悟を決めろという合図であろうか。
 そもそも胸を隠すなどという生娘のような行動をした自分にさえ恥ずかしいと思っている南郷は、アグアグと口を震わせている。

「と、とりあえず、だ、アカギ」
「うん」
「ふ、風呂に、行こうか」
「あぁ、いいよ」
「い、いや、俺一人で行ってくる!」
「どうしてさ」
「お前は、その、傷んとこ、ぬ、濡らせないだろ」
「包帯外していいって言ってたじゃない」
「明日な!」
「・・・まぁいいけど」

 まさか一緒に裸になるような所には行けない、とは言えない南郷。
 ちょうど良い理由があってホッとした。

「俺も歩きにくい状態だし」
「え?」
「勃っちゃったから」
「っっっ!!」
「いいよ、待ってるから」
「待っ・・・」
「いってらっしゃい」

 ヒラヒラと手を振るこの男、悪漢。
 南郷は手早く準備をして部屋を出て行った。アカギはその背を見ながらクックッと笑いを零すのだった。
 南郷はと言えば、足早に銭湯に向かい、ドタバタしながら風呂に入り、ガッシガッシと体を洗う。
 もちろん、頭の中はアカギでいっぱいである。
 今頃アカギはまさか部屋で抜いてたり・・・いや俺が戻るまでそのままで待っていたり・・・というか抜くとしてもオカズは、俺?
 そこまで考えて頭が爆発した。慌てて水を頭から被る。
 突然に冷水を被り始めた妙な男に数名の客が眉を寄せていたが、南郷は気付かない。
 今度は湯に浸かるが、否応も無く頭に浮かぶこの後のあれやこれや(もちろん想像の範囲だが)で、さほど時間は経たずとも茹で蛸の状態になってしまった。
 そもそも男同士のそういうことをアカギは分かっているのだろうかと考えるが、南郷だってよくは知らない。
 なんとかギリギリ、女にはあるが男には無い穴の変わりにどこを使うか、ということぐらいである。
 それだけでも南郷にしては充分な知識だ。
 アカギはそこまで知らないだろうと勝手に思って、自分を納得させる。
 それから出来るだけ何も考えないようにして風呂を出た。
 出ようか出まいか何度か迷ったせいで、いつもより長い時間が経っていた。
 銭湯を出ればすでに外は暗い。

「・・・」

 思わず足が止まる、が、それでもアカギを想えば自然と歩き出した。
 南郷は自分の行動が不思議でならない。
 自分のことを考えれば足は止まるのだが、アカギのことを考えると動くのだ。
 人の心の機微は、自分のことだとしても、南郷には難しかった。
 アパートに着けば、扉の前に佇む。心臓が痛いくらいに鳴っていて、手が震えた。部屋の電気は着いているから、アカギが居ることは間違いない。
 俺も男だ!と意気込んで扉を開けた。

「ただいま!」
「お帰り南郷さん」

 意外にあっさりとした出迎えに、南郷は一瞬気が抜ける。

「遅かったね。随分と」

 随分と、を強調するアカギの口許は微笑んでいて、南郷はホッとしたのも束の間、どうやらお怒りな様子だとさすがの鈍感も気付いた。

「あ、い、いや、その、つい、な、長風呂、しちまって」
「へぇ〜、そう」
「べ、別に、怖気づいたとか、そんなんじゃ、ないぞ」
「だよね」

 ハハッと引き攣り笑いを浮かべながら南郷は風呂道具を片付け、チラリと台所からアカギを見る。

ユックリアジワウ

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