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「どうしたアカギ!俺はお前のもんだぞ!ずぅっと一緒だ!もう寂しくなんかないからな!」
「・・・しょうがねぇな」
「あ?どうした?」

 無言のアカギを尻目に安岡が南郷の杯に酒を注ぎ足す。

「何、南郷さん。これから分かるさ」
「へ?」
「アンタも妙なのに好かれちまったなぁ」
「アカギのことですか」
「そうさ」
「確かに妙なのですけどねぇ」

 それを聞いたアカギが眉を寄せて南郷を見る。
 だが南郷は機嫌の良さそうな笑みを浮かべて、アカギの頭を撫でた。

「でも俺も好きですからねぇ、悪い気はしませんよ」
「お、言うねぇ」

 アカギは何も言えなくなるが、そんな少年の耳元で安岡は呟いた。

「お前も苦労するなぁ」

 ククッと笑う安岡をアカギは睨んで、それから南郷を見た。

「帰ろうか、南郷さん」
「えぇ?まだ良いじゃないか」
「そうだぞアカギ。まだこれから・・・」
「いいから」

 安岡の言葉を遮るようにしてアカギは立ち上がり、南郷の手を引っ張る。引かれるままに腰を上げた南郷は、おいおい、と言いながらも素直に従った。

「手綱を握ってるのはどっちかねぇ」

 そう言いながら安岡は笑い、二人に手を振った。

「まぁいいさ。女でも呼んで、俺は一人でやってるよ」

 南郷は頭を下げながら、アカギに引かれるままに部屋を出て行った。
 障子が閉まれば安岡は止まらぬ笑いを零しつつ、一人手酌する。

「今夜は修羅場かねぇ。まぁあれだけの勝負の後じゃぁ何があっても驚きゃしねぇな、俺は」

 そのうち様子を伺いに行く楽しみが出来たと安岡は上機嫌で酒を飲むのだった。
 店を出た二人はと言えば、呼んでもらったタクシーに乗り込んで真っ直ぐにアパートに向かう。

「おいアカギ、もう少し良かったろ」
「アンタこれ以上飲んだらすぐ寝そうじゃない」
「はぁ?」
「寝かせるわけにはいかないよ」
「なんでだよ」
「俺のもんになるんでしょ」
「あぁ」

 事も無げにそう言う南郷に、アカギは切れ長の目を向けた。

「・・・実力行使しかねぇか」
「あ?」
「何でもないよ」

 アパートに着けば部屋に入り、座り込んだ南郷にアカギは水を持って行った。
 それを一気に飲み干せば、ポケットの重い上着を脱いで南郷は機嫌良さそうに布団に転がった。

「最高の夜だ」
「そう」
「あぁ、アカギ、お前のおかげだ」
「俺はまだ足りないけどね」
「倍プッシュ断られたからか?俺は逆にホッとしたぞ」
「それもあるけど」
「あ?」

 そう、アカギの求める二つのもの。
 死線を潜ることでしか癒せないこの心の乾き。修羅。
 そして、南郷と居るときに沸き起こる衝動。欲望。
 市川と対戦をしているとき、アカギは確実に胸を躍らせていた。
 実感があった。本物の生というもの。修羅を掻い潜るスリル。
 そして今は、後者の欲望を求めている。

「南郷さん」

 転がっている酔っ払いの上に覆い被さることは、至極簡単であった。

「言ったよね、俺はアンタが好きだ」
「あぁ」
「アンタも俺が好きだ」
「あぁ」

 程良い酔いに頬が緩んでいる南郷は、覆い被さっている少年に何の不信も抱かない。楽しそうにその頭さえ撫でている。

「南郷さん、分かってる?」
「何が」
「俺はアンタを抱きたいって言ってるんだ」
「・・・はぁ?」

 思わず南郷は間抜けな声を挙げて目を瞬いた。

「抱くって、え、抱くって、何がだ?」
「男と女ですることを俺はアンタとしたい」
「・・・は?」
「エロいこと」

 まるで当たり前だろとでも言わんばかりにサラリとそんなことを言われ、南郷は目を何度も瞬いた。

「な、な、何がどうなって、そ、そんな、突拍子もない、ことを」
「ずっと言ってるじゃない。好きだって」
「そ、それは、分かってるけどな」
「アンタも俺が好きなんだろ?問題ない」
「いやいやいやいや」

 思わず南郷、酔いも覚める。
 酔いが覚めればようやく今の体勢の不自然さに気付く。
 布団の上で完全にマウントポジションを取られているわけだ。

「お、お前、何言ってるか分かってるか?」
「南郷さんこそ、ホントに分かってなかったの」
「分かるか!」
「あれだけキスもしたのにね」
「あれはっ・・・」

 思わず口篭もる南郷。アカギは何の躊躇もなく顔を寄せた。
 大体、子供が言うエロいことってなんだ、と南郷は回らない頭で回避より先にそんなことを考える。
 まさか最後まで致すことはさすがに無いだろう。そんなこと分からないはずだ、と自分の昔を思えばそういう結果に至る。
 それなら良いかと言えばそんなわけは無いのであって、慌ててアカギの髪を掴んだ。

「待て待て!おい!」

 強引に引っ張ればアカギは顔を顰めながら引かれるままに離れた。

「痛いよ、南郷さん」
「わ、悪い。ってそうじゃなくて!」

 そのとき、引っ張ったときに見えた髪の内側に血の色があることに気付いた。
 既に固くこびり付いた茶色ではあったが、確かに血である。
 まさか自分が髪を引いたせいかと一瞬慌てるが、乾いているのを見ればそんなわけもなく、だが怪我には変わりない。

「お、おいアカギ!これなんだ!」

 上半身をガバッと起こせばぶつかりそうになって、アカギはヒョイっとそれを避けた。
 すぐに南郷はアカギの頭を引き寄せて髪を掻き分ける。自然とアカギは南郷の胸に抱かれる体勢になったが、雰囲気的に押し倒せそうもないと肩を竦めた。

シンゾウニトドクカ

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