「おい……」
「あッあいつ……あの店に入ってくぞ!」
「おいフーゴ……」
「あそこは僕がナマエに教えてやったところなのに……イルーゾォの野郎……」
「…………」

 何やらぶつぶつと恨み言を呟くフーゴの背中を、レオーネ・アバッキオはルージュの引いてある唇を歪め、見つめた。穴だらけのフーゴのお気に入りスーツが、さっき目標二人をつける途中引っ掛けたゴミ箱にやられたのか色がくすんでいるように見えたので、アバッキオは自分のコートの裾も気にして大きな体を丸め、ちょいちょいとほろった。

「アバッキオ!どうします?中へ入るか、ここで待機か」
「好きにすれば」
「じゃあ行こう!」

 つま先の汚れに気がついてすぐにフーゴが走り出してしまったので、アバッキオは一層唇を歪めた。
 まったく、なぜ自分がこんなことに付き合わされているのか、謎が謎を呼びアバッキオはフーゴが自分にしつこく言って聞かせた本来の目的を見失っていた。とはいえそれはそんなに難しいものではなかったはずなのに、アバッキオの心をちっとも打たなかったからさっぱりわからないのも道理だった。店員に軽く手を挙げてずんずん店の奥へ入っていくフーゴにのろのろついていくアバッキオ。店内の視線が束の間二人に集まってから、フーゴはナマエとイルーゾォが迎え合わせに座るソファ席の手前へ滑り込んだ。アバッキオは相変わらずゆっくりと、フーゴの正面に腰を下ろした。

「ご注文は?」
「コーヒー二つ」

 フーゴは短く言って必死に聞き耳を立てているようだった。アバッキオの位置からはイルーゾォの背中とナマエの気の抜ける顔がよく見える。死角へ少し体を寄せてから、アバッキオは退屈そうに頬杖をついた。そういや今日の夕飯はなんにしよう、昼飯がまだだったな、奴らは昼飯をよそで食ったはずだから今食うわけにもいかん、そこまで考えて死角からふと姿を現したナマエと目が合ってしまった。

「あっ!」
「あっれェ?」

 聞き耳だけを立てていたフーゴはナマエの接近に気が付かず、化粧室に立ったナマエはアバッキオたちの横が通り道で、アバッキオがボーッと食事のことを考えていたせいで、イルーゾォが慌ててコーヒーを引っくり返した。やましいことは何も無いはずのイルーゾォがナマエの手を引いて逃げ出すのをすぐにフーゴが追いかけたので、うんざりして項垂れたアバッキオが額に手を当てるのと店員が伝票を持ってくるのとは同時だった。なんだかんだ世話を焼くことになる自分にうんざりしながら、アバッキオは渋々財布を取り出し、四人分の飲食代を支払った。



20111217


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