「え?なんですか?」
「だからァーあんたを迎えに来たの」
「え?すいません。え?」
「だーかーらー!あんたを!迎えに来たの!イヤホン外せ!」
「ああ〜〜すいません外しますね」
「聞こえてんじゃねーか」

 ナマエを迎えに来たというなんでもチームのホルマジオという男が、つい、といった感じで彼女の頭をパスンと叩いてから、慌ててこっちを見た。

「えっとなんでしたっけ。わたしを迎えに来てくださったんですよね」
「あーもう全部聞こえてるよコイツ。聞こえた上でシカトしてやがったよ」
「すいません、脳が拒否してて……」
「えっもう嫌われてるのオレ?会って数分しか経ってねーよ」
「なあホルマジオ、早く行こう」

 黒い流れるようなフォルムのプジョーから頭だけ出して、白い方の男が苛立った声を出した。僕としてはこんな奴らにナマエを預けることには反対なのだが、ジョルノの命令なのだから仕方ない。せっかく開いた(……僕らの)相談室も、しばらくはなんでもチームのそばへ仮移設だ。
 とはいえナマエはナマエでナマエなりに、こいつらのことを少しは警戒しているつもりらしい。ホルマジオの鼻の穴にぐいぐいイヤホンを押し込む彼女を横目で見てから、プジョーに歩み寄り、覗きこむ。

「おい。あんたらのチーム、大丈夫なんだろうな?」
「だいじょーぶだいじょーぶ」

 奥の運転席の黒い方の男がへらへらしながら言った。

「そんなに警戒してくれんなよ。こう見えても俺たちゃ今の待遇に満足してんだぜ」
「まあ、なんでもチームっていうバカにした呼び方はやめてほしいけどな」
「ジェラート」

 生意気たれる後部座席を、ソルベは助手席に手をかけるように腰を捻って諌めた。こいつらの危険さが変わるわけじゃあないが、ナマエを狙う旧親衛隊がこいつらよりもっともっと危険なのだから、僕はあまりここで波風立てるわけにもいかなかった。気に入らないが、見送るしか術は無い。

「しかしよ、新しいボスはなんでまたあんなスタンド使いでもねーような女の子を組織に入れたんだ」
「ふん。気でもあるんじゃないのか」

 じろりと睨むと、ジェラートと呼ばれた方の男は、ぷいと目を逸らした。ムカつく野郎だ。

「さあな。お前らには関係の無いことだ」
「あーあー……せっかく友好的にやろうとしてんのにお前が憎まれ口叩くから」
「僕のせいじゃあないね。こいつらが余り物なんかよこすから……ぐうッ!」

 気がつくと僕の腕は、後部側の窓を突き抜け細い首をがっちりと掴んでいた。スタンドを発現させることだけは抑えた理性を、我ながら褒めてやりたいと思う。ナマエを、よりにもよって、余り物呼ばわりだと。シートに押し付けられて潰れたカエルのような声を出すジェラートがスタンドを出そうとするものだからこちらの理性も崩れそうになったところで、ひんやりした手がガラスの破片だらけの腕をぐいっと掴んだ。

「フーゴ、やめて」

 初めて見るようなナマエの真剣な顔に、色が変わるように急激に頭が冷えるのを感じた。落ち着いて眺めると、僕の腕は肘の辺りまで血まみれだった。ガラスの破片は目の前でまだ苦しんでいる男の頬や目のすぐ下も傷つけていたから、急にナマエの肌が気になって見比べてみたが、そっちは綺麗なままだった。安堵すると同時に、腕の力が抜ける。ジェラートは大げさに咳き込んだ。

「ごめんねフーゴ、わたしがごねたから」
「い、いや、違うんだ。これは僕が勝手に……」

 勝手に腹を立ててやったことだから。と言うより先に、ナマエはくるりと振り返って、妙に醒めた目で僕を見るホルマジオに向かって言った。

「わがまま言ってごめんなさい、黙ってついていきますから、フーゴのこと許してあげてください。大丈夫ですか」

 今度はぜいぜい言っているジェラートに振り返る。僕は何も言わないジェラートに腹を立てるより、なんだか複雑な気持ちになった。そうか、こいつらだって別に、好きでナマエを連れて行くんじゃあないのに。ナマエのことになると感情的になる癖が自分にあることが判明した。居心地の悪くなった僕は、無言のまま腕を窓から引き抜いて、車に乗り込むナマエをぼうっと見ていた。

「いってきます。大丈夫だよ」
「……いってらっしゃい。何かあったら連絡するんだぞ」

 思ったよりなんでもないような自分の声に驚きながら、痛まないほうの手を挙げる。走り出したプジョーの窓は、そこの角を曲がる頃には何故かすっかり直ってしまっていた。上の方からミスタが僕を呼ぶのが聞こえた。


2011/11/11


やーいやーいシリアスなのお前だけー

 

 



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