ここ、わたしの故郷ネアポリスにはギャングがたくさんいて、もちろんわたしは小さい頃から、優しいギャングにピッツェッタを分けてもらったり恐いギャングにぶつかって睨まれたりしてきた。ギャングといえば、わたしからしてみれば町の至る所にあるマンホールといっしょだ。えっと、違うな、マンホールだとちょっと汚すぎる。海、海といっしょだ。うーん、しっくり来ないな。とにかく、もう空気みたいなもんだってことだ。
「それでジョルノ、今日はどうしたの?」
「ちょっとした息抜きに」
そんな、ネアポリスの『マンホールであり海であり空気』であるパッショーネには悩めるギャングが多い。ギャングも人間であることに変わりはないからだ。
わたしと同い年のジョルノが『あれっ?』と思った時にはパッショーネのボスに成り代わってから二年。無免許無資格無特技無趣味のわたしが、そんな悩めるギャングのために『相談係』になってから一年半。昔以上に身近になったパッショーネは、案外ほのぼのしていた。
「ジョルノさ、最近毎日来てるよね」
経費で落としたクッキーをごりごり噛み砕きながら喋っているわたしの正面で、泣く子も黙るパッショーネのボスは、お澄まし顔で紅茶を啜った。
「無いんじゃなくて『無くなった』んだよ。シマの配分のし直しだとか反乱分子の説得だとかがやっと落ち着いた、ってことだ」
以前チョコラータっていう人の所へ連れて行かれたのを思い出した。挙動不審の明らかに危ない男の子(人?)を従えていて、本人は信じられないことに元お医者さんらしかった。膝が痛いんだけど、と相談しようとすると、大きな包丁のようなものを持ち出してきたのでそれ以来街ではすれ違わないようにしている。
「そっか。じゃあ秋休みって感じなんだね」
「うん」
「学校行かないの?」
「君は?」
「うーん、行っても良いけど……」
「ああ、面倒なんだ」
「まあ、端的に言っちゃうとそうだよ」
端的に言わなくてもそうだ。一年半前まではやっぱりジョルノと同じ学校に通っていたのだけど、ひたすら成績を気にするよりはここにいた方が何倍も楽しい。たとえ五体不満足の危機に晒されてもだ。ジョルノがどうしてわたしを誘ったのかはいまいち、未だに理解できていないけど、楽しんでる割にはお給料も普通にくれるし不自由が無い。部屋の割に大きな北向きの窓から差し込む光が塗り替える季節を、やっぱり大きめの椅子に座ってのんびり味わうのも素敵だ。お気に入りのシャンデリアのお手入れも、紅茶を淹れるのにも、だいぶ慣れた。
どうしてわたしを相談係にしたのかこの機会に聞こうと思って口を開きかけると、見計らったようにジョルノは立ち上がって私の横の窓に近寄った。町と広い海をガラス越しに見渡すジョルノの髪が伸びたな、と思っているうちに、意識は関係の無い方へ逸れてしまった。
20091101