「どうしたの?」
職員室前をウロウロしていると見覚えの無い女教師に声を掛けられた。無視した。ボクの今の目的は、授業中にボクをバカにしたあの教師に『触らせる』ことだけだ。
「……三年生?先生に用があるの?呼んで来ようか?」
つい上履きに目が行った。色でボクの学年を言い当てたらしい。めんどくさいんだよ。もうどこかへ行ってくれ。ボクは爪先を見つめたまま職員室の向かいの壁に寄り掛かった。
「あ、もしかして具合悪いの?」
……この女、空気が読めないらしい。書類を抱える腕とスカートに覆われた脚が視界に入って、それから女はボクの顔を覗き込んだ。咄嗟に逸らそうとして、女の顔が悪くないことに気が付く。
「養護の先生?それとも、私が体温計持ってくる?」
「……お願いします」
焦げ茶色の目に目を奪われたままつぶやくと、先生は満足げに笑って頷いて、そのまま職員室に入っていった。職員室のドアがなかなか開かないからってムリヤリ引っ張って、腕に抱えた書類がばさばさ地面に落ちた。ちらりとこっちを振り返った先生とまた目が合う。照れ臭そうに笑った先生からすぐに視線をはずした。そうだ、思い出した。あいつ、前に全校集会でステージ横の階段につまずいてたやつだ。
ああいうド天然かましてる女はたいてい『自分より悪いヤツはいない』と思ってるんだよな。どの教師もボクが暗いからって避けるか説教するかどっちかなのに、『さっさと帰れ』なんていう口うるさい注意ナシに体温計はいるかなんて普通聞かない。嫌いじゃあないが、苦手だ。直接関わるよりもウチへ帰って……ネタにするほうが何倍もいい。
どうせまたスッ転んでもたもたしてるんだろうな、と思えたから、先生が出てくるより先に帰る事にした。具合なんかもともと悪くないのはもちろんだが、例の先公にちょっかいかける気も失せた。
……何年の先生か、調べてみるのもいいな。名前くらいは聞いとけばよかった。


20090819


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -