学校を出ると岸辺さんに横側からぶつかった。いや、顔を見上げるまで岸辺さんだってことはわからなかったんだけど、最近はよくぶつかるからそうだろうなとは思っていた。見上げると岸辺さんはやっぱりむっつりした顔でこっちを見下ろしてから、ペン先の形のオシャレなピアスを揺らして、ふん、と正面を向いた。
「僕を待たせるなんて随分偉くなったもんだな君も」
「すいません、ちょっとテストの採点をやっときたくて。今日は岸辺さん原稿やるっておっしゃってたから大丈夫かなと思ったんですけど」
「スットロい君がテストの採点なんかをするのと僕が原稿を済ませる速度を一緒にするなよ」
「すいません」
岸辺さんはこういう人だ。本心から言ってるんだろうけど私を嫌っているというわけでもない(その証拠に、こうやって毎日のようにお茶に誘ってもついてきてくれる)ようなので、いちいち気にしていたら仕方ない。逆に、笑ってしまうと岸辺さんは大きく機嫌を損ねる。私は緩む口許を極限まで引き締めて、面白みのないアスファルトを見つめる事にした。
「今日も躓きました。あとなかなか教室の戸が開かなくて」
そして、私の失敗談を聞くと岸辺さんは喜ぶ。
「はは。ダサいな相変わらず」
「多分内股のせいなんですよね」
「戸が開かないのはもう君が教室に拒否されてるとしか思えないな」
「他の人がやるとするーっと開くんですけどねえ」
岸辺さんは決してかわいらしい笑い方をしない、いつでも口の端を吊り上げて目はよそを見て、意地悪な笑い方をするのだ。にやにやっていうのかな。引きこもりがちの子ってちゃんと笑えなくなるみたいだけどそれと一緒じゃあないかなと私は思っている。
「で、君は今どこに向かってるんだい、その内股で」
「岸辺さんのおうちでいいかなって」
岸辺さんがぴたりと足を止めた。数歩前で笑いをこらえる。まあ結局私が何を言いたいかっていうと、岸辺さんをからかうのは面白いってことだ。『うちはだめに決まってる』とか『君みたいな常識と運動能力のカケラも無い奴をうちに入れるわけにはいかない』とかぺらぺら喋り始めた岸辺さんを振り返って冗談ですよと言うと悔しそうにかつ嫌そうに顔を歪めて踵を返してしまった。こっちはマゴへの道だ。


20090803


露伴先生楽しい


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -