朝方目を醒ますとDIO様は既にいらっしゃいませんでした。温度も、おぐしの一本さえも残されず、また尖塔の先の柩ででもお休みなのでしょうか。
私は眠る必要が無いのですが、眠る事は出来ます。しかし、普通の人間の方にございますような気怠さは皆無です。少し凝った気のする首をこきりと鳴らして、起き上がりました。

血の染みたシーツをちらりと振り返ってみます。傷はもう消えていました。当たり前ですが。

シャワーを浴びなくてはいけません。足まで裸のまま冷たい床に足を付きます。

起床直後の怠さはございませんが所謂事後の怠さというのはございます。脳が揺すぶられるからなのか吸血鬼といえど人間らしさが残っているからなのかは定かではありませんがとにかく、この怠さは私にとって気分のよろしいものではございません。下腹部のぬるぬるとした感覚が内股を伝います。

吸血鬼にも生殖能力はあると思われます、月経がありますから。子供ができましたら、それをDIO様はどうなさるのでしょう、いえそれ以前に、私には母性があるのでしょうか。



無駄に不安を抱えるのはよして、腹にあてがっていた手を離しました。離したてのひらをなんとなく見つめながら部屋を出ると、アイスさんがいらして少なからず驚きます。

「ごきげんよう」
「……………」
アイスさんは私をお嫌いなように見受けられます。何故かは分かりませんが、だからと申しましても私はどうにかしたいわけでもございませんので、アイスさんの横をすり抜けようと致しました。
「貴様は」
適いませんでした。アイスさんが、剥き出しの私の二の腕をがっちりお捕まえになったからです。

「貴様はDIO様を愛していないだろう」
どうしてそのようなことをお尋ねになるのでしょう。私が正面を向いたまま黙っているとアイスさんは続けられます。
「おれには分かる。DIO様じゃあない。DIO様の首から下の星の男だ」
「…………そのような事は」
「黙れ!!」
ばき、とそのまま二の腕が断末魔を上げました。そう痛くはございませんが、苛立っていたのもあいまってカチンと来た私はアイスさんの手首を引きはがし、突き飛ばしました。アイスさんがふらふらと後ろへよろ付きます。
……テレンスはまだ女性の死体を片付けてしまってはいないでしょうか。血をいただかなければ傷が治せません。

「わたしはお前が羨ましいんだ」
足を止めると、壁際で突っ立ったままのアイスさんが俯いていらっしゃいました。涙を流されているようにも見えます。我が目を疑って、振り返ってお顔を覗きましたがやはりそうでした。
「わたしもDIO様の永遠の奴隷になりたい」
ああ、彼もンドゥール様とそう大差ない、むしろそれより酷いくらいの可哀相なお方なのでした。急に脳から胸にかけてがすうっと冷めました。元人間として恥ずかしいくらいに、やはり人間というのは頭が悪い。でもその愚かさを受け入れられれば私も人間として生きられる(死ねる)のでは無いでしょうか。

「……なれますわ。DIO様は心の広いお方ですから、いつかは」

あなたが私の代わりになって下されば、私はいつでも死ねますから。そう呟いて踵を返しました。


20090704

ヴァニラは一人称二人称バラバラなイメージが……



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