「テレンス、ワインを」
「ああ、分かりました」
地下にあるワインセラーの鍵はわたしが持っている。ナマエは多くを語らないが、今日もDIO様にお持ちするんだろう。ポケットにいつも身につけている鍵をじゃらりと取り出して、ナマエより先を歩いた。

今日も、ナマエはDIO様のお相手をするんだろうか。傍らに裸のナマエを置いて、裸の人間の女の血を吸い、死体とワインの空き瓶を俺に片付けさせるんだろう。DIO様に仕える身として仕方が無い事だし別に腹を立てているわけでも苛立っているわけでも無かった(悦びでさえあった)がやはりもどかしさはあった。鍵を穴に差し込んでひねり戸を開けると、ひやりとした空気が顔を撫でる。

階段を下りる足音が不規則に響いた。ナマエは今どんな顔をしているのか。わたしはこの時に振り返った事が無い。

突き当たりのドアを開けて中に入ると、ますます気温が下がった。扉を大きく開けて脇にどけるとナマエが顔を伏せながら先に入る。後から入って、後ろ手にドアの鍵をかけた。



ナマエは迷い無く瓶の一つに手をのばして引き抜き、こちらに向き直る。ひたりと目が合った。

少しずつDIO様と同じになってきている、目。吸い寄せられるように近付き、ナマエの頭を優しく掴んで、気付くと、自分の首筋へ尖った牙を近付けさせていた。ナマエは抵抗しない。

「テレンス?」
「血が足りていないんでしょう。飲んだらどうですか」
ぐ、とナマエはわたしの肩をそっと押した。瓶が直に腹に触る。
「いえ、いいわ。DIO様がお残しになったものをいただいているから」
「いいから」
「あの……」
「いいから……」
反発する力をほんの少し受け入れてから、ナマエの顔を正面に持って来た。こうしているわたしたちはまるでふつうの恋人同士のようだ、とわたしだけが酔っているのだろう。変化の少ない表情には焦りや混乱が窺える。そうさ、こんな事したのは初めての事だからな。それでもナマエがもし本気で逆らっていれば、ドアに鍵がかかっていたって関係なく外へ出てゆけるはずだ。

「テレンス」
小さく動く口を塞いだ。ナマエの手から滑り落ちたらしい瓶ががしゃんと割れて、薄い靴の裏からじわりと液体が染みる気がする。いつまで経ってもナマエはわたしの口内には牙を立てなかった。

20090704

噛まれた人が吸血鬼になるのは吸血鬼側がエキスを注入した場合だけですよね?あれ違いましたか?



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