「おかえりなさい」

デーボさんは今日も生々しいお傷を携えて帰られました。既に引き攣ってしまっているお顔に新しい傷が付いて、まるで失敗した木版画のよう。私はお傷の手当の準備をしようと思いましたがデーボさんはそっと私を制しました。後ろから肩を掴みます。

「いい、自分でやれる」
「ですが」
「あんたはDIO様のお相手だけしてりゃいいんだ。下手に甘えたら俺が殺されちまうだろうが」
「………」

分かりました、と言ってさりげなく肩の手を振り払うようにデーボさんと向き合いました。軽く会釈をすると、デーボさんはふいっと何かに引っ張られるようにご自分のお部屋へ戻ってしまわれます。私は控えめにその後ろ姿を見ながら、やはり救急箱くらいはお持ちしようと決めました。自分の部屋にある小さな箱を引っつかんでデーボさんの部屋へ向かいます。

実際の所、デーボさんの傷はこの小さな救急箱の中の消毒液や包帯では癒えはしないのです。深い傷でなければ敵を排除できませんし、失敗すればテレンス様に酷く叱られたり、さらに酷ければ肉の芽が暴れ出してしまいますから。

「デーボさん、ナマエです」
返事を待たずに部屋に入りました。恐らくいつまで待っても応答は無かったでしょう。硬そうなベッドに腰掛け、埃を被ったカーテンの端で、デーボさんはえぐれた大きな傷の周りを拭っていらっしゃいました。こちらをちらりとも見ません。

私も対抗するように黙って、デーボさんの隣に座りました。ぱちんと箱の留め具を外します。

「あんた、痛くないのか?殴られても」

ガーゼをお当てしたあたりで唐突にデーボさんは私に聞かれました。

「ただ殴られるだけでは恐らく。何年も殴られておりませんので定かではありませんが」
「そうか」
ガーゼにテープをそっと貼っても、すぐに血が滲んで参ります。そりゃあそうでしょう、これだけ大きな傷でしたら。


がつん、と強い痛みがございました。口の中の柔らかい皮膚がぷつりと切れる感覚に続いて、溢れるように血が流れ出て参ります。吸血鬼とはいえ心臓は動いていますから、冷たい血が一気に口内へ溢れてしまいました。デーボさんのベッドを汚してしまったのを申し訳なく思っていると、今度は頭が強引に上に引っ張られます。髪の毛を引っ張られているようです。

「これも、平気な訳だ」

「……Exactly」

デーボさんの双眼がぎらぎらと光ってらっしゃいました。デーボさんが少しでも楽になられるなら、私の体が何度崩れようと構いません。彼は可哀相な人なのですから。


20090629

デーボって原作で一度でも喋ってましたか……?


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