軽い衝撃の元をたどると脛のあたりにナマエが付いていた。じっと宝石のような目を見つめると、向こうもじっと見つめ返す。これが『無垢そのもの』なのだろうなと、未熟ながらにそう感じていた。

ナマエは、カーズ様がお拾いになった人間の子どもだ。まだゴミみたいな年数しか生きていないこいつは、口がきけないらしい。だから何か用があるときはこうやって触れて、ただじっと見上げる。何の用だ、と問う度、口をぱくぱく動かした。微かな音波の震えから用件を汲み取るのだ。

……どうやら今日は、おぶって欲しいらしい。逆らう理由は無い、しゃがんでやった(それでも彼女の体高では乗りづらそうだったが)。

この生き物は、不思議だ。これからたったの数十年間しか生きられないのに、希望に溢れている目は自分のものより一杯に光を湛えているように見える。

あ、とナマエが掠れた声を出した。顔をちらりと向けて意図を探る。
「あたし、みんながすきよ。ともだちができて、とってもうれしいの。だからしなないでね」

やはり、不思議だ。これはどういった気分なのだろう、見当も付かない。己のこともわからぬのに、ナマエがどう感じているかなぞ一ミリも解る筈がない。まだ自分が若いから、なのだろう。ナマエが死ぬ頃には、分かるだろうか。


20090618


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