ディオ様が今本拠地にしていらっしゃる、お伽話に出てくるようなお城のまわりを、今夜は散歩することにいたしました。ディオ様の許可はいただいております、私が逃げないということをディオ様はしっかりわかっていらっしゃるのでしょう。足場の悪い丘を降りようといたしましたら、うっかり踏み外して転げ落ちてしまいました。痛みはありますが意識は消えないままです。寝巻の腹のあたりがすっかり破れて、と思ったら少し尖った岩に体が仰向けで突き刺さっておりました。道理で簡単に身動きができないわけです。ですがやはり感じるのは弱い弱い痛みだけ。虚しくなって、私はしばらくそのままの姿勢でいました。

今夜は月が綺麗です。満月の日には私たち吸血鬼だけでなく狼男も活動をされるのでしょうか。そんなことを考えていたらおもしろくなってきました。明るいような暗いような大気の中で、私はやっと体を起こします。内臓が腰の横にまで垂れていました。こんなことがあっても私の心にはなんの感動もありません。

座ったまま腹の穴が塞がるのをじっと見ていましたら、後ろから何かが近付いて来るのが聞こえました。人間だったら良いのに血を吸えるから、と呟いた自分の脳をえぐり出したくなります。

「……おい。ディオから逃げて来たのか?」
声をかけられて仕方なく振り向くと、黒い長い髪のマントの男が数メートル離れた箇所から私の顔を覗きこんでいました。月明かりの下で私の顔はどのように見えているのでしょうか、分かりませんが、男は少し警戒しているように見えます。
「……いえ」
一言だけ答えて、私は立ち上がりました。思ったよりも寝巻は大きく破れていて、乳房の下の辺りが見えるくらいになってしまっていました。どうせディオ様に壊されてしまうから構わないのですが、脆いものを見てしまうとどうしても考えてしまいます、私は一体なんなんでしょうか。
「吸血鬼なのか?」
「ええ」
前を合わせて(恥ずかしいわけではありません、みっともないので)、横顔だけを後ろに向けました。なるべく犬歯は見せたくありません。
「……それならばそんな所で何をしているんだ?」
男も私も、一向に距離を変えようとしませんでした。彼はきっとジョナサン様のお友達なのでしょう、ほんの少し波紋を感じます。あたたかい太陽の、私がもう二度と感じることのできない

「……あなたこそ、ここにはもういらっしゃらない方がよろしいわ」
「何?」
「石仮面との出会いが、あなたに苦しみを与えませんよう。祈っています」
何に祈るというのでしょう。神は私を見捨てました、そうでなければ私はこんなところでこんな想いで立ち尽くしてはいないはずです。

ざり、と地面を踏み締める音がして、思わず振り向きました。男がこちらへ近付いてきています。
逃げることも飛び掛かることもせず、じっと私は男を見つめます。男も私を見つめ返しました。不思議な視線です、青いような、白いような。
彼はおもむろにマントを脱いで、私の体にそっと掛けました。

「……ありがとうございます」
「お前が望むなら、」
男は私の肩に、布越しに触れます。
「葬ってやっても良い」



混乱しました。美味しそうな血の流れていそうな白い手の甲、首筋、頬、額、目玉(水晶体がとくに、)、私を無意識へと誘惑する言葉、私はどれに従えば良いのでしょうか。私がいなくなって喜ぶ方はいらっしゃるでしょうか、また、その逆は?ジョナサン様、ジョースター卿、奥様、ディオ様、私はどうすれば良いですか?








結局私は、その白い手を自分の肩から剥がして首を横に振りました。いくら太陽のあたたかさが恋しいとはいえ死は恐ろしいようです。悲しみは感じることができなくなってしまっていますのに、恐怖は生意気にも人なみに健在しているようでした。腹が立つ。男は黙ったまま踵を返して、その場を立ち去りました。

20090616


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