「ブラフォード様はお元気でしょうか」
「なに言ってる?」
壊れた窓際でふと呟いた私に、ディオ様は冷たい声でおっしゃりました。その声と同じくらいに冷たくなってしまった私の手がつうっとぎざぎざの窓枠を撫でます。
「もう奴は死んでる。元気もクソも無いだろう?」
「そういう根も葉も無いことをおっしゃるのはよろしくありませんわ、ディオ様」
「ふん……お前も言うようになったな」
ディオ様が私の命をお奪いにならないことはよく分かっています。気に入っていただいている、というのが一番大きな要因、であれば良いのですが、ディオ様は単にジョナサン様と張り合われているだけなのでしょう。申し上げたい気持ちは積もるほど私の心にございますが、こうはなりましても、つまりコンロの火に手が触れても死なない体になりましても、という意味でございますが、それでも私はディオ様の、正確にはジョースター様の召使でございます。ディオ様とジョナサン様と平等に私を扱って下されば良いのですが、こんな体になってしまっては、つまり人の血を吸いたくて仕方ない渇いた体になってしまっても、という意味でございますが……とてもジョナサン様の元へは戻ることができません。

こうべを振って邪念を隅へ寄せました。今私はブラフォード様のことを考えていたのでした。黙ったままのディオ様に尚も語りかけました。
「ブラフォード様には、どこか人間味がありますわ。私達にはもう無いような」
「ほう」
ディオ様が、靴を大理石にかつんと言わせて立ち上がったのが聞こえました。それに、空気の流れもようく分かります、まるで後ろに耳がついてしまっているみたいに。これでは、膝にお坊ちゃまが飛び付いていらっしゃるより前に気付いてしまって驚くことができません。悲しくもなれませんでした。
「ブラフォード様は」
ディオ様が私のすぐ後ろへいらして、髪を尖った爪でお梳きになります。不愉快極まりないことですが、私には逆らうことができません。何故かは、分かりませんが。
「私にとって希望ですわ。きっと吸血鬼から人間に戻る方法があるはずですもの」
「さあ、どうかな」
「ディオ様、ブラフォード様に会わせて下さいませんか」
「ダメだ」
「それなら私、日が昇りましたら外へ出ます」
ディオ様が私の頭に軽くキスをして、鼻で笑いました。まるで『無理に決まってる』とでも言いたげなその吐息は私にとって苦痛でもありましたし快感でもありました。


20090616


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