※泉美要素あり










「ん、ぁ、そ、そこ…っ」
「…ここ、か?」

広いリビングに、やや高めに上ずった声と、相対するように低く押し殺したような声がする。

「あ、いい、んっ……ぁ、ね、スローン」
「ん?」
「あっ、‥も、もっと、強く、…して?」

お願い、とねだる相手に、男は組み敷いた体を見下ろしながら、イイところを狙ってぐっと体重をかけた。

「あぁっ」
「ッだぁーっ、もうやめろやお前らよォ!」

濃密な空気を一気に破ったのは耐えかねたらしい第三者の怒号だった。彼はソファーに行儀悪く腰かけたまま、問題の二人に唾を飛ばす。スローンの指先に翻弄されていた臨也は、今彼の存在を思い出したように目をぱちぱちさせていた。そして珍しいことに、その顔にかあっと赤みが差す。己の無防備な声やそれを他人に聞かれたことに気付いて、羞恥に襲われたらしい。

「ごめんね、蘭くん」
「声だけ聞いてたら完全AVじゃねぇか、妙な声出すんじゃねェよおめぇは」
「だってスローン、すごく上手なんだもん」

長いソファーにうつ伏せで寝転ぶ臨也を潰さないよう跨り、その足や腰をマッサージしていたスローンは、そう言いながら熱っぽく潤んだ目で見上げてくる臨也に頬をかいて曖昧に頷いた。腕を褒められるのは妙にこそばゆくも嬉しいのだが、臨也が心地よさそうな吐息を漏らすたび顔を顰めていった泉井という男の心境も分からないでもない。

「あっ、す、すごい…っ」
「だからそれ止めろって…完勃ちしたら掘るぞテメー」
「おい」

そこへ、ここにきて初めて女性の声が混じった。低めのそれは静かな怒気を孕んで更に唸るような低音で泉井に届く。あ?と振り仰げば、床に立っている美影が冷たい眼差しで彼を睨み下ろしていた。

「んな鬼みてぇな顔すんなよこえーなァ」
「……」

改める気配など微塵もなく、愉快そうにニヤニヤと己を見返す泉井に、美影の目が不穏に細められる。

「…ん、ありがとう、スローン。いい気持ち」
「いや」

殺伐とした2人とは対照的なほど平和な空気で、礼を述べて身を起こす臨也にスローンも細い体の上からどいた。そしてソファーに並んで座ると、臨也は肩をぐるぐると回したり、ほっそりした腰に手を当てて確かめるように捻る。

「なんか体が楽になったよ。スローンは凝ってないの?」
「鍛え方が違うからな」
「そっかぁ」

そんなやりとりを聞いていた泉井は、ふと思いついたように美影を振り返った。スローンと話を弾ませる臨也をじっと見つめていた美影も即座に視線に気付き、再び眉間に皺を寄せてこちらを向く。

「なんだ」
「俺もマッサージしてやろうか?そんなでかい乳ぶら下げてたら肩凝んだろ」
「馬鹿か、くたばれ」

心底呆れたような溜息を吐いてから、美影はくるりと背を向け立ち去ろうとする。その後ろ姿をニヤニヤと眺めていた泉井だったが、なんだかんだ下腹部に熱が集まっているのを適当に解消すべく立ち上がった。

その行動に、スローンと臨也もようやくこちらを振り向く。そんな2人にひらひらと片手を振りながら、「外出てくるわ、ごゆっくり」と背中越しに声を投げ掛けると、泉井もその場を後にした。



時刻は穏やかな平日の昼下がり。静かになったリビングで、臨也はうーんと伸びをしてから笑みを浮かべて隣の男を見上げて言った。

「スローン、お腹すかない?何か作ろうか」
「そうだな。俺も手伝おう」

そしてソファーから腰を上げ、連れ立って台所へ向かう。
2人分の大きさの異なる足音が、ゆっくりと遠ざかっていった。




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