折原臨也は基本的にいつも薄い微笑を浮かべている。愛想がいいとか優しい人だからとか幸せだからとかではない。どういう意図でいつもそんな表情を貼りつけるのかは知らない。




奈倉と臨也がセックスをするようになったのはいつだったか。学生時代だったのは確かだが、それが中学のときか、高校か、大学かはいまいち判然としない。思い出そうとすれば思い出せるが、敢えてそれをしなかった。


初めてのときからそうだったかはこれもまた曖昧だが、臨也はこういう行為をするとき大体泣く。たまにAV女優顔負けのビッチ臭さで積極的に乗っかってくるときもあるが、大体の場合臨也は泣いた。号泣ではない。少なくとも外側は。




「…っ…」
「は、‥‥ん、」


灯りを落とした室内に、衣擦れと熱い息遣いだけが響く。奈倉が住むマンションは平均よりはかなり上流な階級で、ここには都会の喧騒は届かない。

(…また、泣いてる)

蒼白い月明かりがぼんやりと照らしだす白い体。切なげな吐息をもらす唇を見下ろして、本能に押されるようにしてなめらかな頬に手を滑らせたとき。指先で覚えた濡れた感触に、奈倉の動きがふ、と止まった。

(どうして泣くんだ。泣きたいのはこっちだ)

普段弱いところなんて絶対に見せない、自業自得とはいえ臨也という男は己の人生を縛り付ける呪いのようなものだ。それがなぜ、こんなときに限ってはらはらと涙をこぼすのだろう。

最初は、生理的な涙かと思った。臨也はひどく感じやすかったし、やはり男同士の受け入れる側の負担は相当なものなのだろう、と推察したが、これといって言葉をかけることはしなかった。ただ細くしなやかな体をかき抱いて、恐れるように、同時に傷付けようとするように、臨也の体にのめり込んだ。食いながら食われているようで、暴いているのに曝されているような感覚だった。

何度か体を重ねるうちに、生理的なそれとは別に、臨也は涙を流しているのだと気付いた。音もなく静かに、肩を震わせるでもなくはらはらと伝い落ちる。どす黒い人間の分際でその体から出る水分はまるで雪解け水のように透明に澄んでいるから、思わず指を伸ばしてしまうのだ。触れた涙はあたたかくて、この男もただの人間なのだと奈倉は思う。

今まで一度も、なぜ泣くのかを問うたことはない。 どうせ自分の本当のことを人に教えはしないだろうという、長年の付き合いから察した彼の頑なな殻の存在と、もう一つ。

それは多分、いつから臨也と抱き合うようになったのかや、初めて触れた日のことを、思い出せるのを分かっていながらしないでいるのと同じことかもしれなかった。

(俺は、きっと、抜け出せなくなる)

だから、今頬に添えたこの指先で、臨也の涙を拭うことも、その訳を聞いてやることもしない。


「ぁ、あ…っ」
「…っつ…」

奈倉は両の目蓋を強く閉じ、甘い嬌声を耳にしながら、組み敷いた細い体に身を沈めていった。




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