※イザビッチ




日本人とは元来奥床しく、性的なことに対して淡白かつ奥手であるというのがイメージだ。スローンも例に漏れずその国民性は知っていたし、臨也もそうだろうと思っていた。彼の一度も染めた事のないだろう艶やかな黒髪や白い肌の他に、臨也の醸し出す冷ややかな上品さや潔癖な雰囲気もあったかもしれない。

家でただ夕食を終え、二人で絨毯の敷かれた床に座っていたときのことだ。なんとなしに「スローンって体大きいよね」と言った臨也に、確かに己の2メートルを超える筋骨隆々とした体は、白人としても巨漢の部類だとスローンは相槌を打った。
ところが臨也はテーブルに両手で頬杖をついたまま、じぃっとその逞しい巨躯を見つめている。その長い睫に縁取られた綺麗な瞳の奥底に、僅かだがトロリとした熱があるのにスローンは気付いた。

「…どうした、臨也。具合でも悪いのか」
「大丈夫だよ?ねぇスローンってさ、女のひとすき?」

言いながら臨也はするりと身を近づけ、スローンのがっしりとした胴に擦り寄った。

「ああ、好きだ」
「じゃあ、…どんな風に、抱くの?」

臨也の手が、確かめるようにゴツゴツと岩山のように割れた腹筋をなぞっていく。流石にスローンはぴくりと眉根を寄せ、その細い手を掴んだ。

「臨也…何をしてるんだ、お前は」
「誘惑だよ?」

至極当然のように小首を傾げる様に、スローンは目を見開いてぎょっとした。

「臨也、」
「だってスローンってそんな立派な体してるし、あれも大きいんでしょ?」

熱っぽく言葉を紡ぎ出しながらもその目は期待になのかキラキラと輝いているように見える。華奢な顎のラインとチェリーのように熟れた唇が急に意識されてしまい、スローンは押し止めるように臨也の両肩を掴んだ。そこも骨格からして細く、下手に力を籠めると潰してしまいそうな程だ。

「ねぇ、少しハメを外してみてよ、スローン。ここ最近はご無沙汰でしょう?俺を女として扱って‥‥いいよ」

胡坐をかいているスローンの正面からしなだれ掛かるようにしてくっつく。胴体に滑らせた両の手でシャツを掴み、そのままズボンから引き抜くと、広い背中にゆっくりと這わせていった。
肌と肌が直接触れ合う感触に徐々に見知った感覚が呼び起こされたが、しかしスローンは強く理性を意識して自制する。が、四木からの指令の中で、ターゲットとの関係については何と書いていただろうか。そんな事を考えてしまっている自分に気付いて面食らった。

「臨也、おい…」

スローンより二回り以上小さな体が体重をかけてのしかかってくるのに、容易くどかすことができるはずがずるずると背中をついてしまった。腹筋に手をついて上半身を起こした臨也は、腰にはしたなく跨って上機嫌だ。ピンク色の舌をちらりと覗かせ、期待と興奮のさざめきに頬をほんのりと紅潮させている。

「俺、おっきいのが好きなんだ」

臨也は慣れた手つきでスローンのベルトを外し、前を寛げる。ほっそりとした手が下着越しにそれに触れ、待ちきれないように取り出した。
現れたそれは既に首をもたげ始めており、その期待を裏切らないサイズに臨也は釘付けになっている。しっとりと汗の滲む白い喉が、こくりと上下するのが見えた。

「すごい…スローンのおっきい」
「臨、也」

まずい、そう思って手を伸ばすが、指先が届くより臨也がくわえるのが僅かに早かった。

「っ…!」

小さな口いっぱいに飲み込むと、温かい咥内の粘膜に包まれ下半身にとろけるような快感が走る。臨也はまずは大きさや太さを味わうように口全体でもごもごと堪能した後、入り切らなかった棹の部分を両手で持ち、亀頭をペロペロと舐めた。

「くっ……やめ、ろ。臨也…」

そんな商売女のような真似をしている姿が俄かには信じ難く、二人の関係性からの背徳感から制止の声が飛び出す。その反対に、己を捕らえ使役するあの四木という男の飼い猫に奉仕させている――――スローンの奥底に潜んでいた歪んだ満足感が、彼の手のひらを動かし、小さな頭を股間に押さえ付けるように掴ませた。

実際、臨也は今まで関係を持ったどの女よりも技術が長けており、ノンケが血の迷いを起こした訳ではなさそうだった。明らかに女ではないのに、この綺麗な青年は不思議な色香を持っていると思う。正当化をするような本心を列挙しながら、スローンは徐々に流されていくに任せた。目を伏せ、うまそうに男の性器を口にふくむ様は、言い様のない嗜虐心を煽ってくる。

「ん、ふ……、はふ‥」
「っく…」

元々太かったそれはすっかりと形を変え、鉄のように硬くなっている。臨也は先走りの液を零さないように舌を出して舐めとると、舐めきれず伝い落ちるそれは手で掬って口に運ぶ。その光景を見て更にスローン自身は質量を増して、いよいよ射精の瞬間が近付いてきていた。


そのとき、濃密な空間を破るように第三者の発する音が響いた。それは近くからで、機械的な音が断続的に二人の耳に聞こえてきたのだ。全身の筋肉は張り詰めたまま、しかし手からやや力が抜けたスローンのもとからするりと抜け出した臨也は、そばにぺたりと座って携帯を取り出す。口元を拭いながら発信者を確認した途端、ぱっと表情が嬉しそうに華やぐのが見て取れた。

「はい、臨也です。――ええ、どうしたんですか?」

何事もなかったかのように嬉々として四木との電話をしている臨也は、スローンを振り返る気配すらなかった。カラコロと鈴を転がすような笑い声を呆然と聞きながら、スローンはただ床に仰向けになり、信じられないような面持ちで己のターゲットである青年の小さな背中を凝視する。つい先程までの妖艶な色香は綺麗に消え去り、今は電話の向こうの男とのなにやらビジネスライクな会話に集中しているようだった。

一気に脱力しながらも、まだスローン自身は天井を仰いでいる。仕方がないのでこの熱はトイレで吐き出すとして、スローンは今後の日々を憂いて左腕で目を覆った。

(これも四木への報告書に書いたら、殺されるかもしれんな…)

自分の置かれた状況の繁雑さの表層をしか知らなかった事実に、スローンは今更ながら気付かされたのであった。




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