日が落ちようとしている。
時刻は夕方だ。

この国の夕方は遠い北の母国のそれよりも暖かい――当たり前のことだが、窓から見えるオレンジ色の柔らかい光を見つめながらスローンは考えていた。


「スローンさん」


振り向くと、己が“鎖”として日本のマフィアから派遣された、その鎖をつけられた青年が立っていた。これぞ日本人という艶やかな黒髪をしていて、細く白い体はどこか頼りない。しかしその瞳は一部の隙もなく、スローンは長年の経験から一筋縄ではいかなそうな底知れなさを感じ取っていた。

ことり、とほっそりした首をかしげて問う。


「お風呂がわきました。先に入ります?それともすぐに夕食にしましょうか」
「お前は入らないのか」
「俺は、あとでいいです」


じゃあ、お言葉に甘えるとしよう。臨也からタオルと着替えを受け取り風呂場へ向かう。2人でこの隠れ家で暮らし始めてしばらく経つが、スローンは臨也という男の様々な面を目にした。
驚いたのが、自分に対して非常に甲斐甲斐しく世話を焼くことである。三食きちんと飯を作り、風呂をわかし、包帯も替える。嫁をもらうなら日本人にしろ、とは諸外国で聞く格言だが、なるほど献身的である。


(しかし、“鎖”だと)


粟楠会に囚われ、その幹部の飼い猫の鎖という役割を担うことになろうとは。
いつまで続くか分からぬ不思議と穏やかな日々に、知らずどこか安堵のようなものを心の片隅に感じ始めている。

スローンは己の数奇な半生を思いながら、シャワーのノズルを捻った。




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