ふ、と触れた感触は、苺大福の外側みたいで、ひとのくちびるはこんなに柔らかいんだと小さく驚いた。
今触れ合っているこの人はきっとひとではないのだけれども。
姿形はひととなんら変わらない。だとしたら、触れた肌や唇の触りごこち、弾力なども変わらないのだろうか。

鯨木の唇も完璧な形をしていて表面は傷一つなく、とても柔らかい。そして臨也の唇も彼女に負けず劣らず柔らかくてふにふにであったから、2人の互いに生まれて初めてのキスとなる触れ合いは、まるでマシュマロみたいだった。

「………わっ!びっくりした」

そろそろと目を開けた臨也は、レンズ越しにしっかりと開いた双眸に見返され思わず飛び退くように離れた。鯨木は相も変わらず平静そのものといった無表情でそこにいる。

「鯨木さん、キスするときって目をつむるものじゃないのかな」
「そうでしょうか。相手のお顔を間近で見る機会だと思いまして」
「それはそうなんだけど」

今一噛み合わない会話をしてから、臨也はそうっと細い指で自身の唇に触れてみた。白い指先が簡単に沈み込む感触に、確かめるようにもう一度、二度押しつける。

「口付けって初めてしたけれど、柔らかいだけで特に何もないんだね。どうして人間はこんな行為をするんだろう」
「本能的な行為で、理由など後付けなのでしょう。言うなれば人間的というよりも、動物的な行為かと」

淡々とした口調で同じく自分の指先で唇に触れながら、鯨木はにべもなく述べた。それを聞いて、臨也のしみ一つ無い眉間に少し皺が寄る。臨也は腕を組み、考えるようなポーズをとった。

「動物的行為か…ますます変だよ。そんなこと、人間たちがしているなんて」
「でも折原様の唇は、ふわふわで心地のよいものでした」

鯨木の率直な言葉に、臨也は意味が飲み込めない様子で、いわば“はあ?”という顔で彼女を見つめた。そして段々と言われた言葉を咀嚼していき、自身へのあけすけな評価に羞恥が沸き上がってくる。白い頬に赤みが差し、ぎこちなく視線をそらす。そんな初な反応をするのだったら普通は唇が離れたときではないのか、と突っ込みたくなるところだが、生憎とここには臨也と鯨木しかいないため、どことなくズレた雰囲気のまま二人のやり取りは続いていた。

「まぁ、いいか。喉渇いちゃった」
「お茶を淹れましょう」
「じゃあ、俺はお茶請けを持ってくるね」

何事もなかったのように二人はそれぞれ茶の支度をしに向かった。臨也は鯨木に背を向け、棚から茶菓子を取出しながらそっと左手を持ち上げると、確かめるように人差し指で下唇に触れる。やはりふに、と弾むやわらかさに不思議な気持ちと、もう一つ。

「折原臨也様。どうかなさいましたか」
「いや、なんでもないよ」

ぼうっとしていた臨也は瞬時に様相を取り繕い、笑顔で鯨木を振り向いた。肌がさざめいて、頬にほんのりと熱が集まってくるのが分かる。じんじんと突くこの情感は、もしかしたらなぜ人間が口付けをするのかの答えなのかもしれなかった。




戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -