今日は部活があいにくのお休み。せっかく早く帰れるのだから、さっさと帰宅すれば良かったんだけどー…何となしに図書室に寄ってしまった放課後。…こんなに後々、後悔することになると思わなかった

「……傘なんか持ってないっての」

今日雨降るとか、天気予報のお姉さん言ってたっけ?私全然知らないんだけど。ザーザーと降りしきる雨を昇降口からぼんやりと眺め、私は大きくため息をついた

「あーぁ、どうしよう…」
「あれ?まだ学校にいたんだ」
「…ん?」

聞きなれた声に後ろを振り返れば、そこにはー…顔馴染みの悠太の姿が。靴を履きながら、彼は「今朝、部活休みだとか嬉しそうに言ってませんでした?」なんて首を傾げる。…いやいや!嬉しがってないし!というか、私悠太にそれ言ったっけ??毎度ながら自分の口の軽さには驚くばかりだ

「悠太こそ、何で1人なの?祐希は?要は?千鶴は?春は?」
「…いきなりそんないっぺんに聞かれても答えられないから。もう少し自重して下さい」
「自重て」

いつも決まりきったメンバーで固まって行動してるのはそっちなんだから、気になるじゃん。何で悠太1人なのかな?って。というか、女子みたいなことしてる悠太達が私には理解出来ない。何でいつも同じ人とばっかりつるんでるのかね…?そうボソッと呟けば「誰かさんみたいに、1人であちこちのグループに顔出してる自由人もどうかと思うけど」と皮肉を言われた。うるさいわ!余計なお世話…!

「俺はちょっと週番の仕事してたんだよ」
「あら、悠太くん…もしかして置いてかれたんですか?」
「おあいにく様ですが、先に帰っていいよって俺が要達に言ったんです。残念でした」
「ちぇっ、何だやっぱり」
「…それで?部活が休みの誰かさんは傘持ってきてないと」
「!…そ、それが何?」
「今日は降水確率80%だって話でしたけど?」
「…ソンナノ知リマセンデシタ」
「…ふーん」

悠太は無表情にそう頷き、傘立てから紺の傘を取り出した。…これ、悠太の傘だったのか。知ってたら借りパクしていったのに、なんて。流石にそんな非道なことはしないけど。傘の留め具を外し、傘をバサッと広げた悠太を私はぼんやり見やる

「ねえ、」
「ん?」
「入っていくでしょ?」
「……は?何が?」
「いや、だから俺の傘に入っていくでしょ?って」

「ほら、もう遅いし早く帰ろう」との言葉に私は思わず顔をぽかんとさせる。…悠太ってどんだけ面倒見が良いんだ。そんなさも当たり前みたいに…優しいなあ。なんか悠太がモテる理由が今さら分かったかも。…いやしかし、相合い傘か……

「うーん…」
「?どうしたの?」
「……やっぱいいや!断る」
「…え?」
「?え?って何?」
「……いや、別に…」

「じゃあどうやって帰る気?」「走って帰る!」「家遠いのに?」「うん!」「このどしゃ降りのなかを?」「うん!」との会話を交わせば、悠太に無言で軽く睨まれた。…悠太が表情を崩すだなんて珍しいなあ、なんて。やっぱり親切にしてくれたのにバッサリ断るとか、良くなかったよなあ…私の言い方が悪い。そう心の中で反省すれば、すかさず「…誰かさんは昔から人の親切を素直に受け取ろうとしないよね」と悠太に皮肉を言われた。うわ、心の中読まれてる…!?

「あー違くて!ごめん言い方が悪かった!」
「…なにそれ、どういう意味?」
「いや、だってさ!相合い傘なんてしたら悠太に迷惑かかるじゃん」
「?迷惑?」
「ほら、私と悠太が付き合ってる〜とか。誰かが私達が相合い傘してんの見たら、誤解して騒ぎそうじゃない?悠太は特にモテるしさ」
「……」
「じゃ、じゃあそう言うことで!また明日ね!」
「!え、ちょっと待っ……」

悠太の言葉を振り切り、私は昇降口から外に飛び出した。そしてザーザー降りしきる雨のなかを全速力で走る。「…悠太のバーカ。そんな風に簡単に相合い傘するだなんて言うないでよね…」なんて。真っ赤な顔で愚痴を溢しながら。…冷たい雨の滴が今の私にはひどく心地好かった




**



「……そんなの、誤解されればいいんじゃないの?」

そう呟き、雨の中を走り抜ける彼女の背中を見つめ立ち尽くす。あそこまで言われたら追いかける気力もわかない。…全く、何であの子はあんなに鈍感なんだろうか。変な気なんか回さないでいいから、オレの親切を素直に受け取って欲しかったのに。本当に馬鹿。何でオレの気持ち、伝わらないの

「…高校生って、色々面倒くさいものですね」

誤解とかすれ違いとか周りの目とか。…大人になれば、もっと簡単に色々進む気がする。もっと簡単に彼女を手に入れられる方法が分かる気がする。そんなことを思ってついたため息も、全て雨音に紛れて消えていった


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