「うあ〜結構混んでますねえ」

1月1日。元旦。1年の始まりということで、神社には初詣に訪れた人々で溢れている。もちろん私も初詣がしたかったから、こうしてコタツでぬくぬくしてた沖田隊長を引っ張り出して来た次第だ

「沖田隊長、あの列に並びましょう!お賽銭入れて神様に新年の挨拶しなきゃ」
「…新年からテンション高過ぎでさァ。マジうぜェ」
「し、新年初めに部下に言う言葉がうぜェとか…!酷くないですか?」
「うぜェからうぜェって言ってんでィ。このバーカ」

「こんなくそ寒い中歩き回らされて、こっちはいい迷惑でィ」なんてぶつぶつと文句を呟き、沖田隊長はふわふわの青いマフラーに顔を埋める。…何か可愛い。沖田隊長、子供みたい。手袋までして完全防寒の沖田隊長についクスッと笑みが溢れてしまう。が、次の瞬間には「…何笑ってやがんでィ」なんて睨まれたうえ、ゲシゲシと足で蹴られた。痛!痛いです沖田隊長マジで!

「ちょ、そんな蹴らなくてもいいじゃないですか!」
「お前に笑われるなんて死ぬことより屈辱なんでィ俺にとっちゃ」
「し、死ぬことよりですか!?」
「つーか何でお前はこんなくそ寒いのに素足出してんでさァ。バカじゃねーの見てるこっちが寒い。俺の視界から消えなせェ」
「えええ!?」
「…あのーすみません」
「?」

「次、あなた方の番ですよ?」と促され、後ろを振り返れば…ああ、なるほど。いつの間にお賽銭する順番を待つ列が出来ていたらしい。教えてくれた初老のおじいさんに礼を言い、私は「沖田隊長、後ろがつかえてるみたいなので早く済ませましょう」と彼の腕を引いた

「チッ、仕方ねーな……ん、」
「?」

「ん」ともう一度念を押し、手を私に差し出す沖田隊長。??え、どういうこと?犬にお手をさせるアレみたいな??よく分からないまま沖田隊長の手にポンッと自分の手を置けば、バコッと沖田隊長に頭を叩かれた

「な、何すんですか!」
「それは俺のセリフでさァ。気安く触んないでもらおうかィ」
「へ?じゃ、じゃあ何なんですかこの手は…?」
「金でさァ金」
「か…金!?」

お、沖田隊長ついに部下からカツアゲを…!なんて大袈裟なくらいリアクションをすれば、また頭をバシッと叩かれた。う、一体どういうことなんです…!?

「今日手ぶらで来たんで神様に賄賂するための金がねーでィ。勘違いすんな」
「わ、賄賂って…お賽銭ですよ、お賽銭」

…まあ要するにお賽銭のお金を貸してほしいってことですよね。ふふーん!なら貸してしんぜましょう!私は自分の分の5円玉を取り、沖田隊長に財布を手渡した

「はい、どうぞ」
「ん」
「5円玉はもう1つあるのでそれを…」
「そーれ、っと 」
「!!?」

………今何が起きたか説明しましょう。何故か事もあろうにも、沖田隊長は私の財布を賽銭箱に投げ入れたのです。財布ごと!です!そして財布は偶然にもすっぽりと間を抜け、賽銭箱の中に見事に入ってしまいました。…つまりは最早笑い事じゃないんですよマジで。あまりに突然なことにリアクションを取れなかった私も、数秒後には「あ…あああ!私の財布がアアアア!」なんて泣き叫ぶ羽目に

「沖田隊長おおおおおお!何してるんですかあああ!!」
「賽銭するなら値段が高いほど神様も喜んでくれそうだろィ?」

「ほら、これで一つツケですぜ。神様あんた、今年は賽銭に見合った分の幸運よこしなせェ」なんてお天道様に向かって言いながら、沖田隊長は鈴をガラガラと鳴らした。っ…ひ、酷い…!私のお財布が…!賽銭箱の中じゃ取り出せないし…!その場でうずくまり、私はそのまま顔を俯かせた。「おーい後ろがつかえてやすぜ」「…ううっ…」「あのー…?」「あーすいやせんね、今退かせまさァ」なんてやり取りをしつつ、沖田隊長が私の襟首を掴んでズルズルと引っ張り、神社の隅の方まで移動させた

「おい、ほら立ちなせェ。屯所に帰るぜ」
「……」
「いつまで落ち込んでんでィ。どうせ財布ん中、3千円くらいしか入ってなかったろ」
「す、Suicaも入ってたんです!あとPASMOも!」
「どうせ普段パトカーでの移動ばっかなんだから、んなの滅多に使わないじゃねーかィ」

……まあ確かに考えてみるば損害はあまりなかったけど。何かこう…いきなり新年早々こんなことされると凹むというかね?どんだけ私は沖田隊長に嫌われてんだよ、みたいな。今年こそはせっかく仲良く仕事出来るようにって、そう思って初詣誘ったのに……もう知らないもん。「…沖田隊長のドS、鬼畜、横暴、」なんて悪口を繰り返し呟き、私は膝を丸めた。そんな私を面倒くさく思ったのか、沖田隊長の深いため息が耳をついた

「…おい、」
「……」
「おい、顔上げなせェ」
「……」

あ、上げてなんかやらないもん…!そんな変な決意を固めた次の瞬間、チッという舌打ちの音が聞こえた。そして…

「!?ん、っ…」

顎をガッと掴まれ、そのまま無理矢理顔を上げさせられた。あっ…と思った時にはもう遅く、私の唇には沖田隊長の唇が重ねられていた。触れること数秒間。チュッというリップ音をたてて、柔らかく温かな感触は離れていく。なっ…え!?い、いいい今私何されて……!

「おー顔真っ赤」
「あ、ああああの!沖田隊長、私に…え?あれ??な、何で…」
「借りた金の代わりでさァ」
「へっ???」
「お年玉。俺からお前にくれてやらァ」

財布の件は絶対謝まりやせんけど、なんて付け足して沖田隊長はニヤリと笑みを浮かべる。「お、お年玉って……」と口をパクパクさせる自分が何とも情けない。ー…神様、新年早々こんな奇跡みたいなことが起こるだなんて。総額5円のお賽銭分の幸福、私はさっそく使い果たしてしまったわけなのでしょうか。そんな問いかけを空に向かって尋ねてみても、答えは何も返っては来なかった


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2012年が皆様にとって良い年になりますように(*´ワ`*)
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