「いらっしゃいま…」

「おぅ、久しぶりー。元気してたか?」

「!!平助くん!」



店の中から出迎えれば、そこには長い髪を揺らした小柄な少年が立っていた

私はとりあえず彼を、店の外に備え付けてある長椅子へと案内した(ここは彼の特等席なのだ)

店主である母さまに「か、母さま!平助くんが!平助くんが来たよ!」と早速報告すれば

母さまは「あらあら良かったわね」なんて私の頭を撫で、私にお茶を運ぶよう指示する

…久しぶりだなぁ。この前平助くんが店(うち)に来たのはいつだっけ?



「お、お待たせ!はいこれお茶」

「あーありがとな」

「いえいえ!ちゅ、注文は何にする?」

「んー…じゃ、いつも通りで」

「はいかしこまりました!」



熱いお茶の湯飲みを平助くんに手渡し、私は店の奥からみたらし団子三本をお皿に乗せる

駆け足でビュンと平助が座る外の長椅子に戻れば「相変わらず元気だなー」なんて笑われた

元気だよそりゃ!だってそうじゃなきゃ甘味屋の印象も悪くなるし…何より、平助くんも来てくれなくなっちゃうじゃない

私がそう心の中で言い訳をしていると、平助くんはズズズと茶を啜り

ぽんぽんと自分が座る長椅子の空いたスペースを叩いた



「平助くん…?」

「隣、座れば?」

「え?」

「時間帯的に今は客足も途絶えてるみたいだし…少しくらいならいいだろ?」

「……」



にこりと笑いかけられれば、もちろん断ることも出来ない

私は「じゃあちょっと失礼しまして…」と一言置いて、平助くんとは少し距離を空けちょこんと座った



「(う…緊張するなぁ)」



何を話そう…私、平助くんのこと何にも知らないからなぁ

平助くんが普段何をしてて、どこに住んでいるのか

家族はいるのか、恋仲の人はいるのか

聞きたいことが私の頭の中でぐるぐると廻る



「あ、あのぅ…」

「俺さ、」

「!は、はいっ」



言葉を紡ごうとした瞬間、急に平助くんの言葉が重なったものだから

私はびくりと身体を震わせ、持っていたお盆を落としてしまった

平助くんはそれをひょいと拾い上げながら「ごめん…先話していいよ」なんて軽く笑う

私はその提案に千切れるぐらい首を横に振り、平助くんに先に話すよう促した



「いや、えっとその…俺さ、ここに来る前に土方さんに言われたんだ。むやみに一般人と仲良くしてれば、そいつに危害が及ぶって」

「??ひじかたさんって…平助くんのお友達の名前?それに一般人と、って…」

「俺、新撰組の隊士なんだ。それも…八番組の組長やってる」

「!」



しんせんぐみって…あの新撰組?

平助くんが、京の都では恐れられているあの武装集団、新撰組の組長…?

思わず顔をぽかーんとさせる私に平助くんは「土方さんってのは新撰組の副長の名前で…巻き込みたくないならちゃんとハッキリさせとけってさ…」と言って残りのお茶を啜った

……そっか。だから平助くん、今日は腰に刀を差して…



「…そう、だったんだ」

「…あぁ、」

「それじゃ…お仲間もたくさんいるんだよね?」

「え?あ…うん。そりゃあいるよ」

「それで平助くんはあの新撰組屯所に住んでいると」

「お、おう…」

「……分かった、ちょっと待っててね」

「へっ?」



いきなりすくっと立ち上がった私に、平助くんは目を真ん丸くした

そのまま店内へと入っていった私の後ろから「お…おい!急にどうしたんだよ?」なんて声が聞こえたような気がしたが、私は「すぐ戻ります!」とだけ返しておいた



**



「…はいっ、お待たせ!」

「え…?」



店内から戻って来るなり大きめの包みを差し出す私に、平助くんは「これ…何だ?」と不思議そうな顔をして首を傾げる



「お土産だよ。新撰組の皆さんと食べて?いっぱいお団子詰めといたから」

「は?」

「あ、代金なら大丈夫。これ私の驕りだから」



そうにっこり笑顔を見せると、平助くんは「いや、そうじゃなくて…」と言って言葉を濁す

?どうしたんだろ…



「平助くん?」

「…お前さ、俺のこと怖いとか思わねェの?」

「?…怖い?」

「だって新撰組って言ったら、もっと思うことあるだろ?京での評判も悪いしさ…」

「……」



「俺達は人を斬って生きているんだから」と言葉を重ねる平助くんは、それきりで黙ってしまった

思うところ、かぁ…



「…別に、そんなの関係ないよ」

「え…?」

「だって平助くんは平助くんだもん。ちょっと不器用だけど私みたいな町娘にも誰にも優しい…どこにでもいる普通の男の子だよ、平助くんは」

「!」

「だから怖いだなんて思えないし…急に新撰組だー!って言われても、実感わかないよ」



「でも八番組組長なんて…すごく強いんだね、平助くん。私と同い年なのにすごいね」なんて言って、おかわりのお茶を湯飲みに注げば

平助くんは急に「ぷっ…」と吹き出し、お腹を押さえて笑い始めた



「?へ、平助くん?」

「あははっ…そっかそっか。どこにでもいる普通の男の子、か…。なるほどなぁー!」

「??」



な、何で笑ってるの…?

その場でおろおろする私に平助くんはなおも笑い声をあげながら、私の頭をくしゃりと撫でた



「あははっ…ごめんごめん!まさかそんな返事されると思わなかったからさ」

「え…?」

「新撰組だって言ったら大抵は拒絶されるし、甘味屋の一人娘さんなんて怖がっていつも通りに対応してくれないんじゃないか?なんて左之さんが言うから…」



さのさんって…誰だろう?やっぱり新撰組のお仲間かな…?

私は隣で「あー笑いすぎて腹痛い」なんて目尻の涙を拭う平助くんを見て、胸がぎゅっと締め付けられた

…私は、この笑顔の向こうにある悲しみや苦しみを今まで知らなかった

平助くんがいつも何を背負って生きてるのか…私は知らなかった

私は平助くんのことを何も…



「…平助くん」

「ん?」

「教えてくれて…ありがとうね。私、嬉しいよ」



そう言う私の頬をぽろぽろと伝う涙を、平助くんは「俺も…ありがとうな」と微笑み拭ってくれた


そしてほほえんだりする


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素敵企画歓落様に全力で捧げます!なんか無駄に長いよおお.