「それじゃ、達者でな!恒道館道場にも是非遊びに来てくれ」
「…ええ、分かりました。局長さん、お元気で」
真選組屯所を後にする彼。身に纏っているのは真っ黒な制服ではなく、藍色の着流し。…そう、彼は今日をもって真選組を去るのだ。「はは、その局長さんっていうのもナシにしてくれ。俺はもう真選組を辞したんだから」と言われれば、私だってもう苦笑いを返すしかない。

「(…はあ、何だってこんなことに…)」
真選組屯所を後にする局長さんの背中を見つめ、深いため息をつく。ー…事の始まりはいつだっただろう。局長さんが「お妙さんと結婚して、新八くんの恒道館道場を継ぐ」といきなり言い出した時だろうか。いや、その前から全てが狂ってた気がする。
「(二年後、なんて…皆が皆、謎の変貌を遂げてしまったのには何か理由があるのかな)」
実際はもちろん二年なんて経っていない。ただ私がある日目を覚ました時には全てが変わっていた。まるで、この世界に私1人だけが残されたかのように…。

「おい、何ボーッとしてんだ」
「!や、山崎さん…」
「あの方がお呼びだとよ。お前また勝手に屯所から出てたらしいな?」
「そ、それは…」
「あー言い訳はいらねェよ。…ただあの方はすっごく怒ってるけどな」
早く行けよ、と私の背中を押す山崎さんも既に昔の山崎さんではない。一見チンピラと化した金髪頭の彼は今や真選組の鬼の副長なのだから。
「(…とりあえずは新八くんが戻ってくるのを待つしかないかな)」
今日万事屋さんに寄った時にいたのは修行(?)を終えたばかりの坂田さんだけだった。何でも神楽さんは宇宙で修行中らしく、新八くんも暫くお休みをもらっているらしい。…新八くんが戻って来れば何か状況が変わる気がするんだ。そうでなくても、何故かこの世界に取り残されてしまった私と土方副長だけで問題を解決するには荷が重い。あくまでもいつも通りに…うん、頑張ろう。パンと頬を軽く叩く。気合いだ、気合い!この状況を乗り越えてみせる。私は気持ちを改めて、目の前のドアをコンコンと叩いた。

「…失礼します、山崎さんからカイザー様が私をお呼びだと聞いたのですが」
「……ああ、そこに座れ」
カチャリとドアを開ければ暗い朱色の瞳がこちらをじろりと睨む。脚を組んだまま適当な椅子を指差した彼に、私は「はい」と短く返事をした。…もう今の彼のこの姿には慣れてしまった。まさか恋人であった彼までもが、こうして別人にまで成長しとしまうとは思わなかったけど。今の名前は確か…皇帝ソーゴ・ドS・オキタV世だっただろうか。

「…さて、お前が今何故私にこうして呼び出されたか分かるか?」
「!え、えっとそれは…」
「それは?」
「それは…私がカイザー様の言い付けを破ったから、です」
「どんな言い付けだ?」
「…私が真選組屯所から勝手に外に出ていってはいけないという言い付けです」
「そうだな。…じゃあ何で私がそんな決まりを言い付けたか分かるか?」
「えっ…?」
何でって、そりゃあ………何でだろ?私が無断で屯所から出ていく理由は、急に皆が二年後なんて言い出した原因究明のためなんだけども…。もしかしてそれが沖田隊ちょ…カイザー様にとっては不都合なことのかな。「すみません、分かりません」と正直に言葉を紡ぐ。それに彼は僅かに眉をひそめ、私の元へとつかつかと歩み寄った。そして私の頬へ手を添える。

「か、カイザー様?」
「…その呼び方やめろ」
「えっ…じゃあバカイザーさ…」「その呼び方もやめろ」
地に這うぐらいの低い声を出し、彼はこちらをぎろりと睨み付ける。う、やばい本気で怒ってる…。カイザー化したことで以前より迫力は倍なのだから、こういう時に困るのである。真面目に怖い…。私は深めに頭を下げ「じゃ、じゃあ何て呼べばよろしいんですか?」と控えめに言葉を紡いだ。

「…バカなやつ、」
「え?」
「だからいつも言ってるだろ。沖田隊長じゃなくて総悟って呼べって。それと同じでさァ」
「…!」
い、今…"でさァ"って。カイザー様…いや総悟くん、以前みたいな喋り方で…。驚いたように目を見開いた私と対照的に、彼はニヤリと薄く笑みを浮かべていた。朱色の瞳が少し温かみを帯びた気がする。

「…そんでもって何でお前を屯所から出したくなかったかって言うと、真選組を取り仕切るようになってから俺も忙しくなってねィ。お前に構ってやる暇もなくなっちまった」
「総悟、くん…」
「だからお前には屯所にいてもらったほうが安心だと思ってたのに…まさか俺の言い付けを破って万事屋の旦那のところに行くとは」
「!そ、それはあくまで原因究明のために…」
「言い訳なんか聞きたくない。…言い訳を破る悪い子にはお仕置きしないとなァ」
「!?ん、ぅ…」
いきなり胸元を掴まれグイッと引き寄せられたかと思うと、強引に唇を重ねられた。いきなりのことに思わず抵抗をするもそれは叶わず。すぐにその口付けは深いものへとなっていく。
「ん…っ」
ざらりとした生暖かいものが歯列をなぞり口内を犯していく。まるで誘導するようにゆっくりと舌を絡め取っていくその動作に、恥ずかしくも懐かしさを感じてしまった。…やっぱり本質的にはカイザー様も総悟くんも変わらないんだなあ、だなんて。冷静に考えてしまう自分が少し情けない。

「…総悟くんはやっぱり総悟くんなんだね」
「?何言ってんでさァ。当たり前だろィ」
ぐったりと力の抜けた私の身体を抱き止め、総悟くんは首を傾げる。…ううん、違うんだよ総悟くん。私はずっと不安だったの。皆が皆二年後なんて言い出して姿形まで変えてしまって…。私だけ1人おいてかれてしまったことに焦ってたの。また1人になってしまうことを恐れてたの。私の知ってる皆は最初から存在していないものだったんじゃないかと、思い込むまでに。
「……」
すがり付くように彼の背中に手を回せば「お前から甘えてくるなんて珍しいな」と笑われた。…もう今のこの世界がどんなでも関係ない。この人がいるなら…私がこの人を好きでいられる世界なら、あとはもうどうでもいい。そんなことを思ってしまう私は既にどこかおかしくなってる気がする。何が正しいのかなんて分からない。それなら今は目の前の温もりを感じていようと思うんだ。



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沖田くん誕生日おめでとうございます(^▽^)

ちょっと真面目に原作の二年後編を捉えてみました。ちなみに当サイトの連載10daysのヒロインさん設定であります
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