「151、152、153…」
「…毎日毎日頑張るねィ。呆れたもんでさァ」
「!総悟、」
ハァハァと荒い息遣いのまま素振りをする手を止め、くるりと振り返れば
そこには両手を頭の後ろに組み、稽古場の戸から顔を覗かせる総悟の姿があった
…もしかしてまーた仕事サボってたのかな
「で?今日のメニューとやらは一体何なんでィ」
「えーと、素振り千回と腕立て伏せと腹筋を五百回ずつ…かな」
そう答えれば「…ふーん」と至極興味なさげに顔を背けられた
…自分から聞いたくせに。っていうか総悟、何でここに来たんだろ
若干疑問を感じつつもまた素振りを再開させようとした、まさにその時
「隙ありィー」
「!?のわっ!」
突然素早い足払いを喰らい、私はそのまま固い床へとずっ転けた
ううっ、腰おもいっきり打ち付けた…!めっちゃ痛い…!
「…な、何すんのいきなり!」
「ハ、そんなに隙だらけなんじゃいくら稽古しても無駄ってもんでさァ。戦場じゃぐさりと一突きだぜィ」
「(うぐっ!)い、今のはたまたまだもん!っていうかそっちこそ一体どういうつもり!?私は真剣に稽古して…」
「あーもうギャーギャーうるせェな。ちょっと黙ってなせェ」
「!わ…」
いきなり頭をガッと思いきり掴まれ、私は何故か総悟の膝の上に押し付けられた
どういうわけなのか、総悟はそのまま私の頭をぐしゃぐしゃと撫で回すだけ
っていうか、これ…
「(膝枕、だよね…?)」
いきなりどういうつもりなのかと、ちらりと視線だけ上げれば
呆れたように細められた蒼色の瞳と視線がかち合った
「総悟…?」
「…お前はもうちっと、肩の力を抜け」
「!えっ…」
「そんな四六時中バカみたいに張り切ってたって疲れるだけでさァ。何をそんなに焦ってんでィ」
「あ、焦ってなんか…」
焦ってなんか―…なくもないかもしれない
確かに最近、私は何かと空回りしてばかりで
周りにも色々迷惑をかけてるフシがあるから…
「総悟は…今"私がやってること"、無駄だと思う?」
「…無駄だ、とは思ってねェ。ただ真選組(ここ)にいる奴らは誰も、お前が女だ男だなんて小せェこと気にしてねーからねィ。変に考え過ぎないほうがいいとは思いまさァ」
「!」
目を見開かせる私ににやりと笑みを浮かべ、総悟は今度はぽんぽんと優しく私の頭に手を置いた
「……」
少し浮かしていた頭を完全に下げ、ゴツゴツした膝にそっと頭を乗せる
…あぁ、何かすっごく安心する
「そ、ご…ありがとね…」
途切れ途切れに言葉を紡ぎ、私はそのまま意識を手放してしまった
幸せの定理
「…チッ、慣れないことはやっぱするもんじゃねーや」
(その後、身動きを取れずに困り果てた沖田くんの姿があったとか)
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