「先輩、次はどこへ行きますか?」

「え?梓くんの好きなところでいいよ?」

「…先輩はさっきからそればっかりですね。ちゃんと先輩の行きたいところを教えてくださいよ」

「ふふっ、私は"梓くんの行きたいところ"に行きたいの。だから大丈夫だよ、いちいち私に気を遣わなくても」



そう答えれば、梓くんは少しビックリしたように目を丸くした

そして「…先輩は不思議な人ですね」と眉をハの字に下げ、小さく笑う



「分かりました。じゃあ今日は僕が責任持って先輩をエスコートします」

「あはは、ありがとう梓くん。…じゃあ次はどこに行こうか?」

「そうですね…あ、映画でも見に行きませんか?先輩、この前見たい映画があるって言ってましたよね?」

「!う、うん!」



その提案に首を千切れんばかりに縦に振れば、「先輩、そんなに見たかったんですか?」と梓くんに笑われたうえ

「そんなにはしゃいでる先輩の顔、初めて見ました」と大人びた表情で言われた

う、これじゃどっちが年上なんだか分からないなあ…なんて

「じゃあ行きましょうか?」と言って自然に私の手を握る梓くんに、私の心臓の音は高鳴りっぱなしで

少しも余裕がない自分に内心情けなさを感じていた



「先輩?どうかしましたか?」

「!う、ううん。何でもないよ」

「そうですか?顔が赤いみたいですけど…」



「本当に大丈夫ですか?」と私の顔をぐっと覗きこむ梓くん

私はそれを誤魔化すように咄嗟に「あ、ええと、その…少し喉が渇いたかなって…」と言葉を紡いだ


「そうでしたか。じゃあ僕、何か飲み物買ってきますよ」

「えっ…だ、大丈夫だよ。それにそんなこと梓くんにさせられないし…」

「先輩、さっき言ったでしょう?今日は僕がエスコートするんだって。だから気にしなくても大丈夫ですよ」

「あっ、梓くん待っー…」



パッと走り去ってしまった梓くんを追いかけようとした瞬間、頭にズキンと痛みが走った

あまりの痛みに私はついしゃがみこんでしまう



「っ、…」



この感覚は、星詠みの…

そう思った瞬間、私の頭の中にある映像が流れ込んできた


『ー…梓くん、好きだよ』

『ー…僕も好きですよ、月子先輩』


柔らかな笑顔を浮かべるのは、今よりも少し大人びた顔の月子ちゃんと梓くん

…これはきっと、そう遠くない先の未来の形だ

この先にいつか、梓くんが私ではなく月子ちゃんの手を取る未来がやってくる

私の星詠みの力が…そう予知している



「…もう少しだけ、もう少しだけでいいの」



ズキンズキンと痛む頭に手を添え、私はふらふらと壁に寄りかかった

…例え未来が決まっていたとしても、私は今のこの瞬間を…梓くんと一緒にいれる時間を大切にしたい

いつか離れるって分かってても…もう少しだけでもいいから、梓くんを好きでいたい

もう少しだけ…梓くんには私だけを見ていてほしい



「…お願い、」



誰に願ったかなんて分からない

けど私はそれでも誰かに願うことしか出来ない

未来を変えられないことは分かってるから

今のこの幸せが少しでも長く続くようにと、私は奇跡を望むの


どうしても好き


(いつか貴方が離れていくその日まで)


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星詠みの力をもつヒロインさんの苦悩。力の発動条件は作中通り

素敵企画自分勝手様に捧げます!