「う、わ…混んでる…」



お昼時。いつも一緒にご飯を食べてくれる梓も翼も、ちょうど先生に呼ばれ不在のため今日は私1人で食堂に来ていた

…学園に来てから久しぶりかもしれないなぁ、1人でお昼ごはん食べるの



「いつもは梓と翼が席取りしてくれたからなぁ…」



あーぁ、それにしても何故今日はこんなに食堂が混んでいるのか…

座る席を探すべく、お弁当を片手に辺りをキョロキョロと見回していると

誰かに急に横から腕をくいっと引っ張られた



「!あ、あれ?宮地先輩じゃないですか、こんにちはー」

「…あぁ、」



相変わらずの無愛想ぶりに「梓がここにいたら、きっと何か言うんだろうなぁー…」なんて思って苦笑いを浮かべていると

グイッと首根っこを掴まれ、私はそのまま宮地先輩の隣の席にひょいと移動させられた



「?宮地先輩?」

「…座る席を探してたんだろう?なら俺の隣に座ればいい」

「…空いてるんですか?ここ」

「あぁ」



そう言って私から、目の前のケーキやらシュークリームやらに向き直る宮地先輩

いや…というかそれが昼ごはんなんですか宮地先輩

私は「ありがとうございます。ご好意に甘えときます」と頭を下げ、机の上にさっそく持っていたお弁当を広げた

…げ、これ私の嫌いなピーマン入ってる。どうしよう…



「(うぅ、野菜なんか食べるの2週間ぶりだなぁ…)」



でもせっかく錫也先輩が作ってくれたんだから…と渋々ながら口に運ぶと、思ったより自分の好みにあった味で美味しかった

…野菜苦手だけど、これなら食べれるかも…



「…おい、」

「んん?何ですか宮地先輩」

「その弁当…お前が作ったのか?」

「あはは、まさか。錫也先輩のお手製です」

「??東月が何故お前に弁当を作るんだ?」

「あ、えっと実は私、この前栄養失調で倒れかけまして…そしたら何故か錫也先輩に毎朝弁当を作ってもらえる流れになりました…」



「申し訳ないのでこの1週間限定なんですけど」と付け足せば、改めて「…お前がカロリーメイト以外を食べている姿を初めて見た」と驚かれた

…私、宮地先輩の中でそんなイメージだったのか

なんかショックだ…!こんなに太ってるのに、もし"普段からダイエットしてんのかよコイツ"的な誤解されたら…



「そう言う宮地先輩は…いつも通り甘党なんですね。デザートばっかりで」

「む、美味いからな」



それ、答えになってないですよ…とも言えず

私は甘い物を幸せそうに食べてる宮地先輩を、ただボーッと眺めていた

眉間に皺がない彼を見るなんて食事時だけだなぁ本当



「…本当に美味しそうに食べますね」

「まずくは食べれないからな」

「あはは、そうですよね」

「だが、そう言うお前は……」

「?何ですか?」

「その……何だか辛そうに食べるな」

「!」



「もちろん東月の弁当は美味しいんだろうが…お前はいつも、辛そうに食べる」と言って、宮地先輩は箸が止まっている私を見やった

……鋭い人なんだなぁ、宮地先輩は

私は辺りを少し見回してから、隣にいる宮地先輩にだけ聞こえるような声で言葉を紡いだ



「……実は私、あんまりご飯食べるのって好きじゃないんですよ」

「?好きじゃない?」

「はい。私あんまりご飯食べれないから、すぐ残しちゃうし…」

「…弁当の量が多いなら東月にそう言えばいいし、残したら残したで東月に謝ればいいじゃないか」

「そ、それはそうでしょうけど…」



確かに錫也先輩は優しいから、たぶん残しても許してくれる

でも…やっぱり錫也先輩は私を気遣って弁当を作ってくれてるんだし、私はその優しさに見合った行動をしなければ

それに…



「それに…昔から両親に強く言われてまして。"食事は残すな。全部食べなきゃ駄目だ"って…」



毎日家庭で出されていた冷えきった食事が嫌いだったわけじゃない

だけど私はいつも食べきれなくて…その度にすごく怒られてた

時には両親を逆上させ、何度も殴られてしまうこともあった

それからかな…余計にご飯を食べれなくなったのは



「自分じゃ…あんまり食べ物を受け付けられなくて。いつも箸が止まっちゃうというか…」

「……」



そう苦笑いを張り付けた顔を俯かせた私の手から、急にぱっと箸が消えた

あ、あれ…?

箸は…と目で追えば、なぜか宮地先輩の手に青色のそれがあった



「あ、あの…宮地先輩?」

「…お、俺が食わせてやる」

「はい?」

「自分で食べれないなら、俺が食わせてやる」



「あくまで箸でおかずを運ぶだけだが…」と真剣な目をして、宮地先輩は私の前にピーマンの肉詰めを差し出した

「ほ…本気ですか?」と目を丸くする私に「あ、あぁ…もし食べれずに途中で気持ち悪くなれば、止めるから」と返す宮地先輩

……不器用だけど、宮地先輩は本当は誰よりも優しい人だと思う

こんな私に、わざわざ気をつかってくれるんだから



「……本当にすみません。じゃあ今日だけご迷惑かけます」

「…謝る必要はない。俺が好きでやってるだけだ」

「あはは、ありがとうございます」


心を満たす、その気持ち


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拒食症?的な事情を抱えたヒロインと、宮地先輩のある日の出来事

空想レッテル没案。.