「ふふふ〜ん」

「…随分とご機嫌じゃねーか」

「だーって彼氏とチャリ2人乗りすんの、憧れだったんだもん!」

「まぁ漕いでんのは俺だけどな」



緩やかに回っていく車輪

髪をなびいていく温い風

目の前にある大きな背中

…あぁ、何てロマンチックなんだろうか!



「今日は楽しかったね〜」

「…まぁな」

「あ、でもプリクラは心残りかなァ。土方くんってば仏頂面ばっかなんだもん。せっかくの初プリだったのにさ」

「うっせーな。面白くもねーのにヘラヘラ笑えるか」

「うわ、ひどーい。初デートくらいもっと楽しそうにしたっていいじゃんかー」

「だからこうして1日、てめーの好きにさせてやっただろうが」

「そ、それはありがたく思ってるけど…」



確かに憧れの放課後デートではあったんだ、けど…正直こんなにタイムリーだとは思わなかった

クレープ食べてゲーセン寄って、何やかんやしてたら辺りはもう真っ暗。

もっともっとしたいこと、いーっぱいあったのにな…



「…海、行きたかったなー」

「馬鹿。ここから海まで何キロあると思ってんだ。今更チャリで行けるか」

「う、分かってるよ。それぐらい…」



でも何となく海はデートの終わりに欠かせないというか…う―…ん


「「……」」



それっきりで、続く沈黙

土方くんが気まずそうにチラリとこちらを振り返ったのに気付いたが、私は敢えて視線を反らした

…今更ながら、今日の私かなりワガママだったかもしれない(普段は違うんだよ?むしろ消極的な方だから)

嫌だな、嫌われたりしてないかな…

ハァ、と土方くんが大げさについた溜め息に私はビクリと体を震わせた

が、次に出た言葉はさも穏やかなもので



「…いつか、連れて行ってやるよ」

「え?」

「二十歳になって免許取ったら、お前を一番に乗せてやるよ。そしたら海へでもどこでも連れて行ってやれんだろ?」

「…それはどらいぶでーと、ってやつデスカ?」

「かもな」



黒い学ランに寄り添い、そっとその背中に耳をくっつければ。

聞こえてくるのは僅かに早い鼓動で

漆黒の髪の間からは真っ赤に染まった耳がちらりと見えた

…思わず口元も緩む



「っ…大好きだ土方コノヤロー!」

「バ、バカ!急に動くな!!」



恋というものは、

(きっと、今感じるこの気持ち!).