「土方さん達が攘夷浪士42名を捕縛したらしいです」

極めて機械的な声に俺は視線だけちらりと寄越した。隣には見慣れた黒の隊服を着た一人の女。最近真選組に入隊したばかりの女隊士だ。女子禁制の真選組に…と初めは土方さんも顔をしかめていたが、何でも幕府からの斡旋があったらしい。そいつはハンドルを握り視線を前方に移したまま、ハァと大袈裟に溜め息をついた

「…もうこれは私たちが現場に行っても仕方なさそうですね。どこか誰かさんのせいで」
「はてさて、一体誰のせいなのかねィ。せっかく久しぶりに暴れられると思ったのに」
「それは私の台詞です。馬鹿にしてんですか」
「どういう意味でさァ」
「どういう意味も何も、沖田さんが居眠りなんかしてなきゃ私たちはもっと早く出動出来たんですよ?もう忘れたんですか」

…よく喋る女だと思う。全く可愛げがない。小さな時から近藤さんの道場で剣一筋に生きてきたため、俺は普通のやつよりは女を知らないと思う。が、それにしてもこの女は異質だ。こんな女見たことねェ。ザキやチャイナや土方さん以上に俺をムカつかせる奴なんざ、他にはいねェ

「あーあ、何で私が沖田さんなんかとペア組まされてんだか。今日の討ち入りで成果をあげたかったのに」
「成果ァ?お前がかィ?」
「当たり前です。私はいつまでも沖田さんの下なんかでくすぶってる場合じゃないんです。早く隊長格にのぼりあがってみせます」
「ハ、ろくに剣も扱えないくせに」
「別にいいんです。私にはこれがありますから」

そう言って女が取り出したのは二丁の拳銃。…真選組にいるってのに剣を使わず拳銃で闘うというのはどうなのか。一度だけ近藤さんにその旨を伝えたのだが、近藤さんには「まあ確かに女手で扱うなら剣より銃のほうが良いだろうしなあ。人には得意不得意があるから」と苦笑いを浮かべるだけだった。…ちなみに土方さんにも「俺らがいちいち剣の指導してやる必要がなくなるんだ、願ったり叶ったりじゃねーか」と嫌味を吐かれた。全く…コイツを一番隊に押し付けたくせによく言う

「…つーかお前が真選組で地位を上げたってそんなの意味ねーだろィ」
「意味がない?そんなの私が決めることです。早く死んで下さい沖田さん。それで私に一番隊隊長の座を明け渡して下さい」
「死ねなんて言葉、人様に使うもんじゃないって母ちゃんに習わなかったのかィ?」
「私の母上は遊女だったんでそんな教育一つしてくれませんでした羊羮喉に詰まらせて死んで下さい沖田さん」
「こんなとこで急にお通語使うなムカつく」

お前、本当に何が目的なんでさァと目を細めれば、女は軽く視線をこちらに移した。…パトカーに乗りこんでから初めてこっち見たな、なんて思わず笑みが浮かぶ。女が俺を自分の"敵"だと認識してるのは普段の態度から分かっている。だからこそ、俺はこの状況を楽しんでいるのだ

「目的、ですか…そうですね。あるとすればアレですよ。私は沖田さんの上に立ちたいんです」
「は?」
「幕府から派遣された余所者に地位も名誉も奪われたら…沖田さんはどんな表情になるんでしょうね。いつも飄々としてる沖田さんの顔が歪む瞬間を、私は見てみたいんです

「……」

…歪んだ顔が見たいだァ?そりゃあ俺の台詞だ。いつもすました表情で毒ばっかり吐きやがって。俺がさも面倒くさがりの餓鬼であるかのように見てきやがって。…気にくわねえ。この女が俺を一丁前に背きやがることも、この女を屈服すら出来ない俺自身にも

「…なら、やってみろィ。どんな汚い手を使っても構わねェ。精々俺の鼻をあかしてみせなせェ」
「元よりそのつもりです。沖田さんは次の就職先を考えておいたほうがいいですよ。隊長職は私が継ぐので」
「そりゃ楽しみでィ」






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