「(!あっ…お金ない…)」

財布、たぶんトレーニングルームに置きっぱだ…。うっかりしてた。ごそごそとカバンの中を漁っても何も出てくるはずもなく。私はがくんと頭を下げた

「お嬢ちゃん?買ってかないのかい?」
「……」
「?お嬢ちゃん?」
「…クレープ食べたい、です。チョコバナナの」
「それじゃ48シュテルンドルのお会計だね」
「………」
「えっ?お嬢ちゃん?」

お金ないんじゃ食べれない…。でもお腹減った…朝から何も食べてないんだもん。…会社にツケちゃおう、かな。でも、ここで会社名出したら私の正体もバレちゃう…?うーん、でもそれぐらないなら大丈夫なの…かな。店のメニュー表に記載されてる美味しそうなチョコバナナクレープを見つめ、私は「あ、あの。えっと…」なんて言葉を詰まらせた。非常に困惑した表情の店主に申し訳なくなる

「わたし…」
「あれ、お前こんなとこで何してんの?」
「ひっ!」

急に届いた声にびくっと肩を揺らせば、「うわ、そのリアクションおじさん傷付くわー」なんて苦笑いを返された。…ハッチング帽子に独特なお髭。タイガーさん、だ…。タイガーさんは店のメニューを指差し、「お前は相変わらずこういう甘いもんばっか食べたがるなー。太るぞ、いい加減」なんてけらけらと笑う。…女の子相手に言う台詞じゃない。やっぱタイガーさんはどこか鈍い、というかデリカシーがないよ

「…あ、あのお嬢ちゃん?結局買うの買わないの?」
「ん?何だお前買わないのか?」
「…食べたい、けど。お金がないんです」
「はあ??」
「財布、トレーニングルームに忘れました…」

目を丸くするタイガーさんに私は「…タイガーさん。私トレーニングルームに取りに行ってきますね。それじゃさようなら…」と両手を合わせる。も、次の瞬間には「お会計48ドルです」「じゃあこれぴったりで」「ありがとうございましたー」なんて会話が頭上で交わされた。…あれっ



**





「お前は本当に相変わらずどっか抜けてるなあー」
「…?そうですか?」
「そうだよ」

はむはむとチョコバナナクレープを頬張りながら、首を傾げる。いや…だって財布の場所は覚えてましたもん。トレーニングルームに忘れたって。だから抜けて、ないです。そう反論すれば「口の周りに生クリームべったりついてんぞ」と笑われた。…だって、食べにくいんですもんクレープって

「…本当、お前見てっと小さい頃の楓を思い出すなあ〜。楓も小さい頃は手がかかってさあ」
「楓ちゃんって…タイガーさんの娘さん、でしたよね?…それも、私よりかなり年下の」
「お前は年相応じゃないからなー。その抜けた性格といい世間知らずさといい…」

「身長も全っ然伸びないし。ちゃんと毎日食べてるか?あと牛乳飲め、牛乳」と言って、タイガーさんは私の頭をわしゃわしゃと撫でる。…この人のなかで完全に私は手のかかる子供ポジションみたい…。まあしかし言われた通り、私は周りの同じ年代の子より色々な面ではるかに未成熟であるわけで。それは自覚してる…から、いつもタイガーさん含め大人たちに世話を焼いてもらっているのもまた事実

「……大人がいつも気にかけてくれて優しいから、」
「ん?」
「子どもはわざと出来ることをしないで…甘えたくなるんです。手のかかる、子どもでいたいんです」

なんてワガママなんだろう。けど、実際今言った通りなんだ。私はまだまだ子どもでいたい。守られる側でいたい。…普段ヒーローとしてシュテルンビルドの人々を守っている反面、矛盾した考えだけれど。そんな甘ったれた考えだから、ヒーローじゃない本当の私はいつまでも成長出来ない。…こんなこと言って、タイガーさんに呆れられただろうか。怒られるだろうか。私はおずおずとタイガーさんの顔色を窺う、もタイガーさんは「うーわーその台詞、楓にも言ってほしいなあー…」なんて的外れな返事をしてきた

「?…何で、ですか?」
「いや最近楓ったら俺に冷たくてさ〜…俺はまだまだ甘えてもらいたいっつーのに」
「……それも、ちょっと分かります」
「へっ?」
「むずむずするから…ですよ。優しくされると嬉しいけど、なんか恥ずかしくてむずむずするから。だから、たまに拒絶する」

私のその言葉に「…年頃の子どもって気難しいんだな〜」なんて、タイガーさんはハァ…とため息をもらし、ベンチの背にだらんと背凭れした。…そう、自立心があれば他人からの優しさは嬉し恥ずかしいもので。私なんかはまだその域に達せないから、本当にただのガキだと思う。そうタイガーさんに言えば、タイガーさんは「…お前のそうやって案外自分に厳しいとこ、なんかバニーのやつに似てるよな。どんだけ自分のこと冷静に分析しちゃってるんだよ」なんて思い出したかのように小さく笑った。…バーナビーさん、と?彼が他人にいやに厳しいのは知ってるけど…それは自分に対しても、なのかな。うーん…あんま話したことないから分からないや…

「…まっ、あんまごちゃごちゃ難しいこと考えずにさァ素直に甘えといていいんじゃねーの?」
「……そう、ですかね」
「そうそう。お前は大人たちと肩並べてヒーロー頑張ってるわけだし、俺ら大人連中からしたら可愛い後輩には優しくしたくなるもんだ」
「……」

…タイガーさんのそばにいたら、いつまでも私は甘えたな子どものままだろうなあなんて。呑気に微笑む彼の横顔を見ていたら、ついため息がもれた。…でも、まあ、嬉しいんだけれど。そうして無条件に優しさをくれる人がいてくれるから、私は日常のなかに安らぎや穏やかさを見出だせる

「ー…わたし、ヒーローとしては今のところスカイハイさんが一番の憧れです」
「?な、なんだ急にどした?」
「でも、素顔の自分でいるときはタイガーさんが一番の憧れです。わたし、タイガーさんみたいな大人になりたい」
「…お前なぁ…」



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“そこは「ヒーローとしてもワイルドタイガーさんが一番の憧れです!」って言えよ…!”なんて、弱々しいツッコミがその場に響いたり


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