『さあ始まりました!ヒーローTV!今日はどんな活躍を見せてくれるのか!』
「……」

バラバラとヘリコプターの羽音がうるさい。…はあ、どうしたものか。事件現場になっている銀行を前に私はふうとため息をつく。…犯人グループは五人で、人質は八人。さっきアニエスさんにイヤホンを通して言われた内容を頭のなかで反芻する。う、うーん…どうしようか…

「おっここか事件現場は!行くぜバニーちゃん!」
「バニーじゃありません、僕はバーナビーです。さっさと行きますよ、おじさん」
「おう!ワイルドに吠えるぜ!」
「!あっ…」

私の次にここに到着したのはあの二人だった。…やばい、先越される。ガシャガシャとヒーロースーツを身に纏った二人はさっさと銀行へと乗り込んでいく。わ、私も1人くらい犯人逮捕しないと…!また社長さんに怒られる…!ジィーッとヒーロースーツのファスナーを上げ、私は後に続いて乗り込んだ。が、

バァンッ!
「ひゃっ!?」

銃声につい耳を塞ぎ、縮こまる。び、びび、びっくりしたあ…!どうやら乗り込んできた私たちへの威嚇射撃だったらしい。が、しかしそれに物怖じせずに突っ込んでいくのが我らが壊し屋ワイルドタイガーである。彼はハンドレットパワーを発動させ、銃を構えた黒マスクの男二人のところへ一気に飛び、銃を蹴り飛ばした。わあ…流石だなあ…!

「全く…相変わらず無鉄砲に突っ込むんだもんな…」
「貴様ら…ぐあっ!」
「!」

あきれたように首を横に振るも、バーナビーさんは同じくハンドレットパワーで人質を取り囲んでいた男二人を気絶させていた。人質にされていた数人は歓喜の声をあげる。…ハンドレットパワーって、便利だなあ。パワーもスピードもあんな桁違いに上がるなんて。四人の犯人をすぐにー…って、あれっ?犯人って全部で五人だってアニエスさんが言ってたような…??

「う、動くなっ!」
「「「!」」」
「この人質が見えねーか!?」

女の人の首にがっちりと腕を回し、犯人は彼女の頭にぐりぐりとピストルをあてがう。…あー、やっぱり残ってたんだ…。黒マスクの彼は「ほら、道をあけろっ!この女を見殺しに出来るヒーロー様ってなら別だがな!」と一喝。…人命救助が優先なのが私たちヒーローだ。渋々道を開けるように後ろへと退るタイガーさんとバーナビーさんの前を、犯人は悠々と歩き銀行の外へと人質と一緒に出てしまう

『おーっと!?犯人が一人、女性を人質にして出てきました!このまま逃走車で逃げるつもりのようです!』
「!…」

…そっか。さっき警察が要求に促されて用意した逃走用の車が、銀行の前に止まってたっけ。あれに乗られたらまた面倒だなあ…。うーん…

「チッ、汚ねー真似を…。おいっバニーどうす…」
「もう、逃げないでください」
「「!」」
「!?なっ…」

犯人が乗り込もうとした逃走車の前に歩み出て、私は「えっと、車で逃走されると困るんです。…わたし、バイクの操縦下手だし…」と素直な感想を言ったりする。も、犯人には逆効果だったみたいだ。「ふざけんな!」とキレられた。斜め前の方でタイガーさんが少し蒼い顔をしてるのが見える。イヤホンからはアニエスさんの「犯人煽ってどうするの!」なんてお叱りの声も聞こえる。…なんか、ごめんなさい。でも、大丈夫です多分。私はヒーローマスクのゴーグル部分だけを外して、“目を合わせた“ー…





**



「相変わらず便利な能力ですね」
「…?そうですかね…」

ハンドレットパワーのほうが何倍も万能な能力な気がするけどなあ。ヒーローっぽいし。そう返せば「貴女の能力もヒーローとして十分見栄えしてますよ」とバーナビーさんは街中の備え付けの巨大スクリーンを見上げた

『貴様ァ!ふざけ…ー…』
『…おーっとここでグライアイ、犯人を石に変えてしまったあ!流石にこれでは誰も手も足も出ない!』
『…もう、大丈夫ですよ。強めにかけたからあと一時間は動けないし…。そのまま下から抜けてきてください』
『は、はい…!』
『人質を無事救出!グライアイ、犯人確保と合わせて500ポイント獲得だー!』
『……』

犯人の男に向けた私の真っ赤な瞳が、テレビスクリーンにドアップに映し出される。…あれがテレビ栄え、なのだろうか。あの映像だけがさっきから繰り返し流されてるんだが…。私からしたら、うんざりだ。あまり私とあの目を印象付けないでほしい…。あんなギラギラした真っ赤な瞳をしてる人、そうそういないんだから。もしこの目を誰かに見られたら、私の正体はすぐにバレてしまうんだろう。私は真っ黒なサングラスを深めにかけ直し、下を向いた

「前から思ってたんですけど、あの目はテレビ越しに見ても何も影響はないんですね」
「え?ああ…物理的なものに阻まれちゃ意味ないんです。あくまで直接、じゃなきゃ…」
「…なるほど。では、今してるサングラスでも?」
「効かないです、よ。メガネとか、レンズ越しならどんな場合でも」
「ああ、それでこの前トレーニングルームで鏡を見れてたんですね。納得しました」
「!……」

「鏡を見て自分が石になるリスクはないなんて、ますます便利な能力だ」とバーナビーさんは一人でうんうんと納得する。…こうも理屈的な答えを要求するあたり、バーナビーさんらしい気がする。それに鏡のことも…観察して、理論を出して、納得して。まるで…

「…科学者、みたいですね」
「えっ?」
「バーナビーさん、科学者とか学者とかそういうの向いてそうです。常に理屈っぽいというか…考え方が他の人とちょっと違いますよね」
「……」
「…あっ、も、もちろんヒーローも似合ってますけど!バーナビーさんは強いし頭良いし器用だし世渡り上手だし、その…」

…慌てたようなフォローはむしろ余計だっただろうか。バーナビーさんは黙りこくったまま、「…そうですかね」なんて息をするように呟いただけだった。…気を悪くさせたかな。褒めたつもりだったんだけど。バーナビーさんは感情を表に出してくれないから、すごく気を使う。むしろ、ちょっと怖い。私にはよく分からない相手。こうしてたまたま街で会わなければ普段話さないし…いつもはタイガーさんがクッション役になってくれるんだけどなあ…

「あ、あの…」
「きゃー!あれバーナビーじゃない?」
「「!」」
「やだ本当!ヤバい超カッコいい!」
「サインくださいバーナビーさん!」
「えーずるい!じゃあ私とは握手してくださあい!」

急にふって湧いて出た若い女の子たちは瞬く間にバーナビーさんを取り囲む。…流石に顔だしでヒーローやってるバーナビーさんは違うなあ。街をただ歩くだけでも注目されてしまうんだから。…まあそれになんなく営業スマイル浮かべて、「はい、いいですよ」と返事する彼も彼だが

「(…目的地は同じトレーニングルームなだけに、先に行くのも薄情かな)」

仕方なしにバーナビーさんと彼女らのやり取りが終わるのを隅で待つ。も、何故か「ごめん、そこの人。撮ってくれない?」とカメラを渡された。…普段ヒーローとして活動してる私が、見知らぬ子たちの写真係…。そう狭い了見で考えてしまう私はえらくガキでしかない。けど、こういうパシり的なの好きじゃない…。う…まあいいや、仕方ない。私は張り付けたような笑顔を浮かべるバーナビーさんをレンズ越しに確認しつつ、パシャリとシャッターを押した

「どうもー」
「あ、いえ…」
「…ていうか君さ、その無駄にでかいサングラス何?」
「?」
「悪いこと言わないから外したほうがいいよー?そのサングラス、似合ってないもん」
「!……」

…な、なんだその助言は…。私にそう指摘し、彼女らはバーナビーさんに高いソプラノ声で「ありがとうございましたあ」なんて言って去っていった。…いや、別に、似合う似合わないでなく…ヒーローとバレないように。ひいてはあなたたちに危害が加わらないよう、こんなバカでかいサングラスかけてるんだけども…。まあそんなこと、彼女らが一生知る機会なんてないの…かも

「……すごい言われようでしたね。まあ、確かにそのサングラスはお世辞にも似合うと言い難いですけど」
「うぐっ…せめてもう少し慰めてくれてもいいんじゃ…」
「?何故僕が。というか、もう透明なレンズのメガネでいいんじゃないですか?むしろ何もしなくても。だって貴女、能力を使いこなせてるわけでしょう?」
「……」

まあ……確かにそう、ですけど…。でも、ちょっと怖いというか…。何かの節に能力を制御出来なくなって、誰かを危険な目に遇わせてしまうよりは。目の前を隠して、下を見るのがとても楽で。私はただそれが…

「僕は、綺麗だと思いますけどね」
「?…何が、ですか?」
「その目ですよ。まるで宝石みたいじゃないですか?そのルビーのような透き通った深紅色。隠すにはもったいない気がしますけど」

「あくまで僕個人の感想ですけどね」と付け足すあたり、いかにもバーナビーさんらしい。…綺麗、なんて。そう言われたことはなかったなあ。むしろ気味悪いとか変だとか…そう思われてたり言われたりしたけれど。キレイって響きは、ものすごく…

「……バーナビーさんって、ずるいですよね」
「?何故です?」
「えっと…、そうやって女の子が喜ぶような言葉、とか…言えちゃうところ…?」
「何で疑問形なんですか」
「いや、もっと適切な言葉があったような…?ん、と…タラシ?」
「…その言い方は止めてほしいものですね」



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