いつもいつも下を見てた。顔を俯かせて、地面ばかりを見てた。…誰とも目を合わせないようにして


『ー…ヒーローTV、今回は前回放送のダイジェスト!強盗事件の犯人逮捕の瞬間、それぞれのヒーロー達の動きをカメラは捕らえていた!』
「……」

あ…一昨日の強盗事件のだ。誰もいないトレーニングルームで、私はボーッとテレビ画面を眺めていた。…一昨日は全然活躍出来なかったなあ。というか移動手段が格段に欠落してる私は、まず現場にたどり着くのが皆より遅いから仕方ないけれど。空を飛んだり、自分のネクスト能力を稼働させたり…いいなあ。私ももっとヒーローらしくなれたなら

「……休憩、しよ」

縦長な腰掛け椅子にごろんと寝転がる。…邪魔だけど、サングラスは外せないな。また寝転んでるうちに割っちゃわなきゃいいけど…。真っ黒のサングラスを手でかけ直し、私は小さくため息をついた。テレビで流れる皆の活躍の様子が黒いサングラス越しに見える

「……みんなはスゴいなあ、」

私のネクスト能力なんか、比べものにならない。…小さい頃からずっと自分のネクスト能力が嫌だった。恨んでた。苦しんでた。私は、こんな能力をもつこと望んでなかったのに。神様どうして?って。…ヒーローとしてスポンサーさんに雇われてる今でも思う。私の能力は何のためにあるのかって

『おーっと!ここでグライアイ、ワイルドタイガー&バーナビーの補助に回った!犯人たちの動きを止めたァ!』
「……」

…そういや昨日の朝、「ライバルの補助なんかしても仕方ない」って会社の人たちに怒られたっけなあ。あー…もう、私は身体能力は一般人並みなんだからKOHなんて無理ですって。活躍なんか、出来ないから。それどころか、そろそろスポンサーさんにリストラされちゃうかも…ね

「(ヒーロー…ヒーローかあ…)」

ー…私のネクスト能力は、目を合わせたものを石にすること。能力を使いこなせば石にする時間を操作出来たり、無機物をも石に変えれたりとか、まあ…色々出来るが。それでも言うなればそれだけ。私の能力は皆ほどヒーローとして適してない

「(…昔絵本で読んだ物語では、メデューサはみんなに怖がれてたっけ…)」

私なんかはあれほど他人に脅威を与えられる存在でないにしても、怖がれてるってとこでは私もメデューサと同じ。いつだってどの物語だって、私たちは気味悪がられ、みんなに嫌われる存在だった。…息が詰まりそう。下を見てばかりの毎日は、世界を縮めていく。色のない世界で、私はただー…




**





「あらま。嫌だこの子。トレーニングルームなんかで…」
「おーい?寝てるのー?」
「こんなとこで寝てると風邪引くわよ」
「?……ん、むう…」
「おいおい、若い女の子が一人で寝てるなんて無用心だぞー。ここ、俺たち以外にも職員で出入りしてるやついっぱいいんだから。悪ーいおじさんも…」
「虎徹さん、セクハラです」
「いや俺じゃねえから!例え話だっつーの!」
「グライアイくん、どうしたんだい?お疲れのようだね」
「まあ最近連日で僕たち出動してますからね…」
「なら今日はもう家に帰って静養したらどうだ?」
「……」

……いつのまに、みんなトレーニングルームに来てたの。そして、どんだけボーッとしてたの私。というか、軽く寝てた?私。閉じていた目をぱちりと開け、仰向けに寝転がったまま「お、おはよう…ございます、」と小さく呟いた。それに「ああ、おはよう!」と返してくれるスカイハイさんの声は相変わらず大きい。耳がきーんってなった…

「……」
「ん?なんだお前、しかめっ面して」
「寝てたの起こされて機嫌損ねたんじゃないですか?」
「……そんなに子どもじゃ、ない。ちがいます」
「?何かあったの?」

こてりと首を傾げるドラゴンキッドの問いに、折紙さんが「疲れているんじゃないかな。最近連日働いてるから」と代わりに答えたが、私はそれにふるふると首を横にふった。…どうしよう。特に理由はないんだが。ただ色々人生について考えて頭がぐちゃぐちゃしてただけで…うーん

「……昨日、社長さんに怒られました」
「え?」
「…私が犯人、石にしたのに。結果的にタイガーさんとバーナビーさんの補助しただけだったから」
「あー…あはは…、あん時は助かったぜ?ありがとな」
「なーんだ、タイガーのせいか」
「なんだお前のせいか。虎徹、お前ちゃんと謝っておけ」
「いや何で俺だけ!?」
「……石にしたの私なんだから、犯人は私に捕まえさせてほしかった」
「でも、あの時あなたが犯人のいた隣のビルに移り変わるの待ってたら日が暮れちゃいましたよ」
「…そんなこと、ないです。自分のいたビルからエレベーターで降りて、犯人のいたビルに行って、エレベーターで屋上に行って…」
「十分以上かかるじゃないですか」
「そ、そうだよな!お前も走れば間に合ったよな!いやおじさんが悪かったわ!ごめんな」
「ライバルに何言ってんですか、虎徹さん」
「ハンサムぅ〜年下の女の子あんま虐めるんじゃないわよ」
「?はあ…」
「……」

…ライバル、かあ。そうだよなあ仕事上はみんなライバルなんだよなあ。確かにみんなのネクスト能力や強さに私は憧れてるし嫉妬もしてる。けど、みんな優しくて良い人たちで。みんなは私のこと気味悪がらなかった、初めての人たちで。だから、私は…

「………ねむい」
「えっお前まだ寝る気なわけ!?」
「あーほら、こんなとこで寝るな。家帰ってから寝ろよ、な?」
「……10分、だけ」
「あんたねえ…」
「…トレーニングルームなら、みんないるから。危なくない…でしょ?」
「あはは、グライアイが屁理屈言ってるー」
「グライアイくんはよく寝るなあ!寝る子は育つというから、良いことだ!」
「それ良いことじゃなくないですか?」
「…おやすみなさい…」
「えっもう!?」

ぱたっと寝る体勢になった私にロックバイソンさんやファイヤーエンブレムさんが何か言ってたみたいだが…、もういい。寝かせてくださ…

「あーちょっと待った待った!」
「…?」

タイガーさんが何か言ってる…?少しだけ首を動かしてタイガーさんのほうを向けば、突然サッと今までかけていた真っ黒なサングラスを取られた。ー…視界が、とてもクリアになる。一瞬血の気がひいたが、目の前のタイガーさんは変わらずニコニコと微笑んでいた。…良かった、石化してないみたいで

「サングラスかけたまんま寝たんじゃ、危ねーだろ?」
「……」

…それを言うなら急にサングラスを外したタイガーさんも危なかったぞ…!びっくりした私がネクスト能力を発動させちゃったら、タイガーさんは今ごろ石になってたわけだから。私は小さく安堵のため息をつき、一度自分の目を手で覆った。…大丈夫。落ち着いて。ここには敵なんかいないから。ぱちぱちと瞬きをし、ゆっくりと手を退かした

「………」

…もう一度目を開けた時には、色とりどりの世界が広がっていた。目の前には優しい笑顔がたくさん。わたしの、憧れていた世界。…もう下を向かなくていいんだ。私がヒーローになった理由や経緯はこの際どうでもいい。この人たちと出会うために、私はヒーローになったんだと思う。わたしを怖がらないで見てくれる人たちは、何とまあ温かいことか

「つーかお前にはこーんなでかいサングラス似合わないだろ。変てこだぞー」
「……タイガーさんのばあか」




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ごちゃごちゃしちゃいましたが、今すごくわたしが書きたかった笑。グライアイはメデューサの異名。彼女は石化させる能力を使う度に目が疲れるので睡眠ばかりしてます…みたいな設定。連載一本書きたいぐらいだなあ:->

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